‘阿国歌舞伎図’(重文 17世紀 京博)
上村松園の‘砧’(1938年 山種美)
山種美が前の場所にあったころ日本画をよく楽しんだが、絵の前でハットさせられるほど強烈なイメージで迫ってきたのが森田曠平(1916~1994)の描いた‘出雲阿国’。出雲大社の巫女の出身といわれた阿国については男装して踊ったエキセントリックな女性というのはインプットされていた。その阿国が絵画化され黄金の地に切れ長の目力のスゴイ踊り手として登場した。じっとみているとよさこい祭りのあの熱気に圧倒されるのと似た雰囲気が漂っている。
この絵からだいぶ経って、京博が所蔵する‘阿国歌舞伎図’が出品された特別展‘近世初期風俗画 躍動と快楽’(2008年 たばこと塩の博物館)に運よく巡りあった。舞台で阿国(男装で刀を背負う人物)が代表的な演目‘茶屋遊び’ を演じている。これは早い時期の阿国歌舞伎。前にかがんでいるのは茶屋のおかみさん役の女装した男(狂言師)。
砧(きぬた)という題材は浮世絵にもでてくるが、すぐ思い浮かぶのは菱田春草(1874~1911)と美人画の上村松園(1875~1940)。ほぼ同時代を生きた二人のビッグネーム日本画家が砧を描いているというのもおもしろい。砧は衣板(きぬいた)のことでこの板に布を置き、布を柔らかくし、つやをだすために槌で打つ。
春草の絵では薄の生い茂る秋の月夜に女は一人砧を打っている。遠くに行っている夫を忍びながら、心を鎮めるように淡々と作業をしている風。これに対し、松園の描く女性は立姿。砧を打つのをやめ、静かな立ち居振る舞は寂しさが募るばかりという感じ。早く夫に会いたい気持ちが強く、じっと座ってられないのかもしれない。