小杉放菴の‘羅摩物語’(1928年)
東近美は昨年一度も足を運ばなかったので、‘ヒルマ・アフ・クリント展’
(3/4~6/15)をみたあと平常展(4階~2階)をぐるっとまわってみた。
驚いたのは展示室の風景が依然とは全く変わっていること。クリント展を深
く鑑賞していた外国人がここに移動してきたのかたくさんいる。ミロ展が
開催されている東京都美と同じ現象である。
各部屋の作品の展示の仕方が前とはずいぶん変わった感じで、近現代アート
のセレクションに工夫がみられ、一点々が強く印象づけられる。新収蔵作品
にシュルレアリストのエルンストや抽象彫刻のアルプのものがでていたので
隣の外国人と一緒にながめていた。そして、藤田嗣治(1886~1968)
の戦争画‘血戦ガダルカナル’とシニアのヨーロッパ人夫妻が真剣な眼差しで
対面しているのが印象的だった。
インバウンドの来場者が東博でも急激に増えていることは実感しているが、
女性のスタッフにここの状況を尋ねるといつも半分くらいは外国人だという。
東近美は日本画の殿堂であると同時に、日本や海外の現代アーテイストの
作品も展示しているから、海外からやって来た若い美術ファンの心を打つ
ことが多いかもしれない。
2階に降りてくると、近代日本画の春の定番が飾られていた。川合玉堂
(1873~1957)の‘行く春’。この傑作を外国の若い女性と並んでみ
るとは思ってもみなかった。以前東博で長谷川等伯の‘松林図’を同じように
アメリカかヨーロッパの女性と楽しんだことを思い出した。土田麦僊
(1887~1936)の‘舞妓林泉図’や小林古径(1883~1957)
の‘双鳩’、そして小杉放菴(1881~1964)の‘羅摩物語’も彼女の心
をとらえたにちがいない。