ボスの‘聖アントニウスの誘惑’(1485~1505年頃 リスボン国立美)
ボスの‘砂漠の聖ヒエロニムス’(1505~16年頃 ヘント市美)
カラヴァッジョの‘聖ヒエロニムス’(1605年頃 ボルゲーゼ美)
エル・グレコの‘聖ヒエロニムス’(1590~1600年頃 フリックコレクション)
海外の美術館でお目にかかった画家の回顧展で生涯の喜びといえるものはい
くつかあるが、特別の特別だったのが2010年にローマであったカラヴァ
ッジョと2016年マドリードのプラドで開催されたボス。二人が聖書を
題材にして描いた作品はダ・ヴィンチやラファエロとは違って腹にずしんと
くるという印象が強くするので、傑作アートには欠かせないピースになる。
プラドの世界中から集結したボス(1450~1516)の絵で天にも昇る
気持ちでみていたのは三連式祭壇画の形で描かれた‘聖アントニウスの誘惑’。
所蔵しているのはスペインのお隣のポルトガルのリスボン国立美。2007
年リスボンを旅行したときは1回目のため、自由行動の時間がとれず、国立
美へ出かけるのは諦めた。それから9年経ち待望の絵との対面が実現した。
祭壇画の3面すべてに聖アントニウスが描かれ中央のパネルが‘聖アントニウ
スの誘惑’。奇態な悪魔たちが宴を繰り広げるなか、聖人は顔を背け、右手を
挙げて祝福のポーズをとっている。
‘聖ヒエロニムス’もベルギーのヘント市美から出品された。聖アントニウスは
どこか飄々としているのに対し、このヒエロニムスにはシュールチックな
場面設定の上に切迫した悲愴感が漂う。ベルギーのヘントには簡単にはいけ
ないのでこの絵に遭遇出来たのは有難い。聖人がサプライズ満載の怪物や不
思議な植物、花に囲まれているという発想が半端ではない。
カラヴァッジョ(1517~1610)とエル・グレコ(1541~1614)
が描いた聖ヒエロニムスに向き合うと、この聖人が4世紀にローマで活躍した
大変な学者であることを認識する。ギリシャ語とヘブライ語で書かれた聖書を
30年を費やして当時広く使われていたラテン語に翻訳した。その聖書は今な
おカトリック教会公認の聖書として使われている。