カラヴァッジョの‘聖マタイの召（1600年 ｻﾝ･ﾙｲｼﾞ･ﾃﾞｲ･ﾌﾗﾝﾁｪｰｼﾞ聖堂）
マザッチョの‘影で病を癒す聖ペテロ’（1424~28年 ﾌﾞﾗﾝｶｯﾁ礼拝堂）
レンブラントの‘使徒パウロとしての自画像’（1661年 ｱﾑｽﾃﾙﾀﾞﾑ国立美）
ティントレットの‘奴隷を救う聖マルコ’（1548年 アカデミア美）
ベリーニの‘聖フランチェスコ’（1480~85年 フリック・コレクション）
西洋絵画を広い範囲にわたってみるようになると、宗教画とのつきあいも深
くなる。ルネッサンスでもバロックでもその中心はキリストと聖人たちの
物語。聖人にスポットを当てた作品にも傑作が多いが、とくに惹かれている
のがカラヴァッジョ（１４３４～１６１０）。聖人の名前を覚えるのは時間
がかかるが、風俗画的に描かれているので絵にはすっと入っていける。ロー
マのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂に飾ってある‘聖マタイの召命’
はその一枚。右にいるイケメンのキリストが左の座っているマタイ（手で胸
をさす髭の男）に‘私についてきなさい’という。マタイのリアクションがおも
しろい。突然言われたのでマタイは‘あっしですか？’と面食らっている。
映画のワンカットをみている感じなのはティントレット（１５１９～
１５９４）の‘奴隷を救う聖マルコ’も同じ。ティントレットは動きのある人物
描写が抜群に上手く、聖人になった福音書記者のマルコは信仰心の厚いキリ
スト教徒の奴隷が殺されようとする瞬間に天上から飛来し、処刑人の持つ槌
を砕いて奴隷を救う。これに対し熱量が少なそうなのに奇跡をおこす場面が
描かれているのがマザッチョ（１４０１～１４２８）の‘影で病を癒す聖ペテ
ロ’。フィレンツェのサンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂でペテロが奇跡を
起こして伝道活動を行っていたことを知った。
レンブラント（１６０６～１６６９）は使徒パウロを数点描いているが、
アムステルダムの国立美にはパウロに扮した自画像が飾ってある。両手で持っ
ているのはパウロが小アジアのキリスト教共同体に宛てた手紙。すごく印象
深い自画像で親近感が湧く。レンブラントはこのとき５５歳だった。
NYにある邸宅美術館として有名なフリック・コレクションにすばらしい聖フ
ランチェスコの絵がある。描いたのはジョヴァンニ・ベリーニ（１４３４～
１５１６）。これは１２２４年、聖フランチェスコが山中にこもっていたと
きに聖痕を授かった場面。サンダルを脱ぎ手を広げる姿を息を呑んでみていた。