作品が重文に指定された洋画家は13人いるが、山本芳翠の絵では‘裸婦’が
2014年に重文となった。所蔵しているのは今回の回顧展を開催している
岐阜県美。鑑賞の機会になかなか巡り合えず、昨年の‘重要文化財の秘密’
(東近美)でやっと思いの丈が叶えられた。そして、間隔が1年半しかあい
てないのにまた縁があった。これは芳翠がパリ滞在中(1878~
1887年)に西洋画の土俵で描いた裸体画(日本にいたら絶対描けない)
だが、びっくりするほどの出来栄えにほとほと感服させられる。師匠のジェ
ロームは美形の裸婦をみて‘この日本の山本という画家はすごい才能を持っ
ているな!’と高く評価したに違いない。
東芸大にある‘西洋婦人像’も‘裸婦’同様、フランスの美術ファンに画家の名前
を隠して見せたら、10人いれば10人がフランス人かほかのヨーロッパの
国の画家が描いたと答えるだろう。すごく見栄えのする女性画で胸のあたり
にささっと描かれた白の表現がマネの人物画を連想させる。2度目の対面と
なったがいい気持でみていた。
オルセーでははじめの頃は馴染みのない新古典主義の画家はあまり時間をか
けてみず、心のなかを占領しているモネやルノワールらに夢中になるが、
訪問が重なってくるとカバネルやブーグローの描いた‘ヴィーナスの誕生’に
も足がとまるようになる。芳翠の‘月下の裸婦’が姿を現したとき、瞬時にカバ
ネルの絵が頭をよぎった。新古典主義のビッグネーム、ジェロームに西洋画
を教えてもらったからこんなに上手描けるのだろうが、芳翠は新古典主義
にとどまらず西洋画を幅広く吸収している。パリを去る1年前に描かれた‘花
を抱く少女’はじっとみていると後半生のルドンをみているような気になる。
白い花びらと戯れる蝶々をじっとみつめる少女の姿がとてもいい感じ。
さらに芳翠の凄さを感じさせる作品がでてきた。日本に帰国してから描かれ
た‘眠れる女’。誰の画風に似ている? カラヴァッジョが好きな人なら‘法悦
のマグダラのマリア’がピンとくるかもしれない。芳翠とカラヴァッジョが
時空を超えてコラボしているとは。山本芳翠の絵がこれほどバラエティに
富んでいるとは思ってもみなかった。なんでも描ける画力は本当に凄い。
本展のタイトル‘山本芳翠ー多彩なるヴィジュアル・イメージ’が腹にストンと
落ちた。