好きな画家が描いた傑作をみることほど楽しいことはない。今それを東芸大
美で開催中の‘大吉原展’に飾られている歌麿の最高傑作‘吉原の花’で200%
感じている。この肉筆美人画の大作は会期中出ずっぱりで終了日の5/19ま
でいつ出かけてもお目にかかれる。こんなすばらしい浮世絵が日本に里帰り
することは滅多にないので、絵画の好きそうな友人や知人に会うたびに鑑賞
を薦めている。
歌麿本で知ったこの絵との対面が叶ったのは2017年。場所は箱根の岡田
美。同じく肉筆画で幻の絵といわれた‘深川の雪’をコレクションに加えた岡田
美がアメリアにある‘吉原の花’と一緒に並べて展示するという願ってのない
企画を実現させてくれたのである。そのとき、いつか東博で同じペアリング
で公開されたらもっともっと大勢の浮世絵ファンがいい気持になれるだろう
なと思った。
その予想は半分あたり、また‘吉原の花’は東博ではなく目と鼻の先の東芸大美
に姿を現してくれた。これほど嬉しいことはない。だから、2回足を運び、
長く時間をかけ大画面の隅から隅までじっくりみた。‘名画は会うたびに新発
見がある!‘といわれるようにあらたにみえてきたものがいくつもでてきた。
1階の中央で座敷に座っている赤い着物を着た禿(かむろ)は右手になにか
黒いものが描かれていることに気づいた。単眼鏡でみるとなんと鼠!
岡田美の図録にもこれが出ており、18世紀後半、鼠をペットとして可愛が
ることが流行ったらしい。白いハツカネズミならすっと腹に落ちるが、普通
の灰色の鼠だとちょっと違和感がある。
この絵で一番華やかなところは花魁が振袖新造を従えて登場する画面。頭の
上の桜をみてさらにその向こうの青の暖簾に目をやると、部分的にひらひら
揺れている。箱根ではここまでしっかりみなかった。風の動きまで描いてた
とは。そして、気になったのが6人の新造のなかにひとりだけ真正面を向い
ていること。この絵には全部で52人の女性が登場するが、もうふたりこち
らをじっとみている女性がいる。さて、どこだろう?
視線を2階に移すと、おもしろい仕草がでてくる。主客の青い着物の婦人の
前で女性が手の指先を後ろに向けてお辞儀をしている。これは武家の座礼
‘折手礼’で応じているとのこと。もうひとつ思わず口元がゆるむ女性がいる。
右端のおでこと頬がふくれた丸顔の‘お多福’。2階にもうひとりいるが、、