‘コンポジションⅩ’(1939年 ノルトライン=ヴァストファーレン美)
スイスでの美術館巡りが実現したときはチューリヒを滞在拠点にしてスイス
の街をまわるだけでなく、可能であればドイツのミュンヘンまで足をのばし
たいと思っている。それは若い頃ジュネーブから訪問した際は美術鑑賞は
まだ普通の関心くらいしかもってなかったため、近現代絵画が展示してある
ノイエ・ピナコテークとレンバッハハウス美はまったく縁がなかったから。
青騎士のカンディンスキー(1866~1944)やマルク(1880~
1916)のコレクションで有名なレンバッハハウスは過去に何度か所蔵作
を披露し目を楽しませてくれた。でも、まだみたいのはいくつか残っている。
初期の作品‘多彩な生活’はぱっとみるとブリューゲルの農民画を思い起こさ
せる。鳥瞰図法を用いて手前から後方奥まで中世ロシアの様々な人々の生活
が生き生きと描かれており、そこには旗手、巡礼、司祭、少女を追っかける
少年がいる。
抽象絵画に挑戦したカンディンスキーが4年目後に制作したのが‘即興 峡谷’。
それは1914年の第一次世界大戦勃発直前で、ドイツからの国外退去を命
じられる1ヶ月前という激動の最中だった。作品の舞台は恋人のミュンター
と出かけたバイエルンアルプス山中にある‘地獄の峡谷’。本物をまじかでじっ
くりみてみたい。絵の中央下に二人の人物が滝を眺めているが、、、
カンディンスキーは画業の後半、‘究極の抽象絵画の美!’に進化した絵をたくさん描いた。200%痺れるそのシリーズが‘コンポジション’。ポンピドーやNYのグッゲンハイムで心がハイになったのを強く記憶している。まだ縁がないのが‘Ⅸ’とその3年後に描かれ最後の作品となった‘Ⅹ’。年をとるにつれ直線や曲線や幾何学模様を自在に操り全体の造形を美しく見せる作品が生まれてくるのはカンディンスキーの色彩感覚がすばらしいから。だから、抽象画なのに親しみが湧き長くみていようという気になる。
亡くなる2年前に描かれた‘相互和音’とポンピドーで遭遇できることを夢見ている。妻のニーナはカンディンスキーが死亡したとき、この絵をアトリエの棺の横に置いたという。最晩年にこんなに優しくて可愛い感じのする絵に到達したことを、マティスの切り紙絵がみせる明快さやすっきり感とつなげてみたくなる。