‘解放者’(1947年 ロサンゼルス郡美)
仕事以外で好きなことを長く続けていると、その楽しさがだんだん体に沁み
込んでくる。何を元気の源にするかは人それぞれだが、小さい頃から読書や
美術が好きというのはまわりにそう多くはいない。多くの子供はスポーツを
観戦したりやったり、またTVでアイドルの音楽を聴いたりして楽しい時間
をすごす。大相撲は小学生のころからずっとみているから、今も2ヶ月ごと
に6回行われる本場所をTV桟敷でみるのが大きな楽しみになっている。
これに比べると美術鑑賞は30代になってからはじめたので、趣味として
の時間のかけ方は20年くらい少ない。でも、美術に長くのめりこんでいる
のは間違いない。
その長さを実感させてくれるのは関心のある画家、彫刻家、陶芸家などの回
顧展に遭遇する回数。1回目、2回目とだんだん積み重なってくるといい作
品を楽しめる幸せを腹の底から噛みしめるようになる。大好きなマグリット
(1898~1967)のシュルレアリスムに溢れる絵画をたくさんみる機
会は運よく2回あった。ブリュッセルのベルギー王立美で満喫したマグリッ
ト・コレクション(2005年、2011年)と2015年、国立新美で開催
された大回顧展。3回目はもうないかもしれないが、狙いの作品に絞ってまだ
まだ追いかけるつもり。
マグリットに惹かれるのはダリのように深層心理や幻覚的な夢の世界に気分が引きずられなくても意表をつくシュールな表現を気軽に楽しめるから。そういう点からぐっときているのはルノワールの絵をみているような‘初日’と発想がとてもわかりやすい‘魔法使い(4本腕の自画像)’。そして、こんな巨大なパブリックアートがあったら爽快だろうな思う‘心の琴線’。
多くのマグリット作品は‘シュルレアリスムをあまり難しく考えないでね。私の表現したことは日常生活のなかで感じることはたまにあるでしょう’と言われて、そうだなと思うこともあるから安心して向き合える。その一方で、数は少ないがかなり凝ったシュールさが表出された絵もある。風景とキャンバスの絵がダブっている‘ユークリッドの散歩’と謎に満ちた秘密の記号のようにみえる鍵、パイプなどがでてくる‘解放者’。いずれもアメリカの美術館にあるが、‘解放者’はロサンゼルス郡美の所蔵なので鑑賞の可能性はある。スイスのあとはサンフランシスコとLAの美術館巡りを実現させたい。