エルンストの‘聖アントニウスの誘惑’(1945年 ヴィルヘルム=レームブルック美)
ベルギーの首都ブリュッセルでの観光は美味しいチョコレートやムール貝
を食べるのとベルギー王立美へ行くのが団体ツアーの定番。だから、絵画
が好きな方は王立美でブリューゲルやルーベンスの絵に感動すること請け
合いである。そして、近現代アートも充実したコレクションに目が釘付
けになる。そのど真ん中にいるのがともにベルギーで生まれたマグリット
(1898~1967)とデルヴォー(1897~1994)。本館のす
ぐ横にあるマグリット美が2009年にオープンするまでは2人の絵は
専用の部屋にどどっと飾られていた。
デルヴォーは王立美を訪問した上、日本でも2012年府中市美で回顧展
に遭遇したので、鑑賞した作品はだいぶ多くなったが、大回顧展にまだ巡
り合ってないため満足度では半分といったところ。狙いを定めているのは
アメリカの美術館が所蔵している作品。ひとつがシカゴ美にある‘人魚の村’。
2008年に訪問したとき、マグリットの暖炉から列車が飛び出してくる
‘貫かれた時間’はみたのだが、どういうわけかデルヴォーの絵は姿を現して
くれなかった。美術館が製作した分厚い図録(英語版)にはシュルレアリ
スム絵画として掲載されているのはマグリットとマッタ。好みにもよる
がマッタよりデルヴォーのほうがいいと思うのだが、ベルギー2人となる
のを避けたのだろう。NYのMoMAにある‘月の位相’とも相性が悪い。アメ
リアで嬉しい対面が叶ったのは2015年メトロポリタンでみた‘セイレー
ン’のみ。諦めず追っかけるしかない。
手元にあるマックス・エルンスト(1891~1976)の美術本にすご
く鑑賞欲を刺激する絵が載っている。ドイツのデュイスブルクにある美術
館が所蔵する‘聖アントニウスの誘惑’は怪奇的な生き物がたくさん登場する
ボスの絵をすぐ連想させる。ボスとシュルレアリストたちが根っこのとこ
ろでつながっている感じ。これまでみてきたエルンストのイメージはこう
した怪人や奇妙な生き物と湿気をいっぱい含んだ苔で埋め尽くされている
森の風景によってつくられている。
でも、エルンストにはそれとはまったく異なるはっとさせるシャープさと
抽象的な美を感じさせる作品もある。それは個人蔵の‘ソフトの世界’とア
メリカ・ヒューストンのメニル・コレクションにある‘大アルベルトゥス’。
ともに絵の前に立つと‘最高の瞬間!’を体験するような気がする。