ブリューゲルの‘干し草の収穫’(1565年頃 プラハ国立美)
ルーベンスの‘虹のある風景’(1636年 ウォレスコレクションン)
美術館で開かれる展覧会に足を運ぶ回数が多くなると、そのなかには後から
振り返ってみて日本で目にかかれたことがとてつもなく有難い展示だったな
と思うものがある。たとえば、1990年、はじめて日本で公開された
ブリューゲル(1525~1569)の油彩画‘干し草の収穫’。中央に描かれた仕事を終えて家に帰る3人の農婦たちの姿に大変魅了された。この絵をみて以降、ブリューゲルの農民画をウイーンの美術史美術館などでみる機会があったが、風景の描き方や人物描写の点でいい気分にさせてくれて絵ならこれが一番のポジションを長くキープしている。
ブリューゲルを敬愛していたルーベンス(1577~1640)の‘虹のある
風景’は‘干し草の収穫’に刺激されて描いたことは間違いない。ルーベンスの
スゴイところはこちらに向かってくる女たちや牛の背景に見事な虹を描いた
こと。虹がかかることで一層美しさをました広々とした自然が農村の生き
生きした光景をつつみこむ情景が心をとらえて離さない。ルーベンスのやさ
しい画風にほとほと感服させられる。
プッサン(1594~1665)の‘夏 別称「ルツとボアズ」’は題材から
すると宗教画になるが、農村で汗をかく人々の光景をこれほど実感させてく
れると宗教くささが消え画面のなかにすっと入っていける農民画になる。
2008年、メトロポリタン美で偶然遭遇した大プッサン展は一生の思い出
である。時間をつくって手に入れた英語版の図録をじっくり読むことにして
いる。
西洋絵画の名画セレクションに必ず入る絵としてすぐ思い浮ぶのがミレー(1814~1875)の‘晩鐘’。農民画として最初に記憶されるのがこの絵かもしれない。日本には山梨県美に‘種をまく人’があるから、ミレーとの相性がとてもいい。なかでも真摯に生きる農民の姿が胸に深く刻まれる‘晩鐘’は特別な農民画というイメージを持ちづつけている。ミレーに憧れたゴッホ(1853~1890)の‘収穫’をアムステルダムのゴッホ美で遭遇したときは立ち尽くしてみていた。この絵はまだ日本にやって来てない。次回ゴッホ美蔵の名画展があったら期待したい。