セザンヌの‘休息する水浴者たち’(1896~97年 横浜美)
セザンヌの‘休息する水浴者たち‘(1875~76年 バーンズコレクション)
ミュージカル映画‘巴里のアメリカ人’(アメリカ 1951年)
ロートレックの‘アイリッシュ・アンド・アメリカン・バーで踊るショコラ’(1896年)
映画のジャンルのなかでもっとも惹かれているのが刑事もの。日本映画には
傑作が3つある。‘砂の器’(1974年)、‘天国と地獄’(1963年)、
‘飢餓海峡’(1965年)。これまで何度もみているが、もういいやというこ
とにならずまたみてしまう。モーツアルトの音楽を何度も聴くのと変わらな
い。だから、登場人物のセリフやしぐさ、その場面はだいたい頭のなかに入
っている。
黒澤明監督の‘天国と地獄’は前半は子どもを誘拐した犯人との電話のやりとり
が続く密室劇だが、スラムである港町を見下ろす丘上に建つこの権藤邸の
居間の壁に一枚の西洋絵画が掛けられている。よくみるとセザンヌの版画‘休
息する水浴者たち’。黒澤明が使ったのはカラーリトグラフだが、映画はモノ
クロなので色はみえない。横浜美蔵のものをみたことがあるが、これが
映画のものかどうかはわからない。アメリカのバーンズコレクションはセザ
ンヌの絵で世界的に知られている。コレクションがごそっと日本にやって来た
とき、油彩の‘休息する水浴者たち’も含まれていた。
ジーン・ケリーの踊りが本当にすばらしいミュージカル映画‘巴里のアメリカ
人’をみたときは大変感動した。ジーン・ケリーの映画というと‘雨に唄えば’
ばかりイメージしていたが、もうひとつ大傑作があった。ラストにびっくり
するほどゴージャスでアートフルなバレエシーンがでてくる。ジーン・ケリ
ーがロートレックの描いた絵画‘アイリッシュ・アンド・アメリカン・バーで
踊るショコラ’に扮してロートレックの世界を再現していく。
これには200%KOされた。シャンソン歌手のブリュアンが右端にいるし、
中央の下にはシカゴ美にある‘ムーラン・ルージュにて’に描かれた緑と黄色の
顔をした女性がみえる。こんなロートレックの絵でいっぱいのシーンが登場す
るとは。パリの楽しい気分を表現するにはロートレックの絵がもってこいだっ
たのだろう。