伊勢崎 淳の‘備前黒四方削花入’(2003年 茨城県陶芸美)
備前焼のイメージは窯変や緋襷がすぐ思い浮かぶが、もうひとつ胸に強く刻
まれているのが抽象彫刻や現代アート感覚のオブジェのような作品。実際、
こんなやきものが生み出される伊部の窯をみせてもらったことはないが、
日本陶芸展などに出品されたものをみるとアートフルな備前もいいなと思う
ことが多い。
斬新な造形により現代の備前焼の主導的な役割を果たしたのが5人目の人間
国宝になった伊勢崎 淳(1936~)。2006年、茨城県陶芸美で‘日本陶
芸100年の精華’という大変充実したやきもの展にめぐりあった。ここで
伊勢崎のオブジェのような作品に出会った。‘備前黒四方削花入’、角々した
花入は表面につけられたシャープな斜めの線と中央の青の発色に視線が集中
する。色彩的には加守田章二を彷彿とさせる。1997年フランスの国立陶
磁器美で開催された‘備前焼 千年の伝統美展’に出品された‘備前角壺’の清新な
造形美にも魅了される。
伊勢崎に師事した隠崎隆一(1950~)はNHKのやきもの番組や工芸関
連の番組‘美の壺’によく登場していたので、どのようにして作品をつくって
いるのかはだいぶわかった。まだ大きな回顧展に縁がないが、期待はもち続
けている。フランスの大備前焼展にもドキッとする造形感覚からうみださ
れた3点が出品された。19回日本陶芸展(2007年 毎日新聞社主催)
に飾られた‘芯韻’は古代遺跡から出土したようなフォルムに釘付けになる。
備前焼でもっとも驚愕したのが金重晃介(1943~)の‘聖衣’。晃介は備前
焼の中興の祖といわれる金重陶陽の息子。これは土のもっている柔らかさ、
あたたかさを殺さないように硬めの土を薄くして衣をつくり、5枚被せられ
ている。こんな備前焼があったのか!フランスでも‘海から’と一緒に披露され
た。フランスのやきものファンも度肝をぬかれたにちがいない。