狩野芳崖より遅れて関心が高まった橋本雅邦(1835~1908)はもっ
とも見たかった代表作‘龍虎図屏風’との出会いが予想以上に時間がかかった。
日本画の美術本でこの絵が静嘉堂文庫美にあることを知り展示の機会をじっ
と待っていたが、なかなか登場しない。ようやく鑑賞の機会がめぐってきた
のは新しくできた三菱一号館美で三菱のお宝美術品が披露されたとき。
10年も待たされた。
この龍虎図は狩野派や長谷川等伯らが描いたものとはだいぶちがう。対峙す
る龍と虎の空間表現に奥行きと広がりがあり、映画のワンシーンをみている
ような感じ。2頭の龍は荒れ狂う波とダイナミックに揺れる雲の中から威圧
的に進んでくる。これに対し、岩に腰を落として身構える虎は‘さあー、やる
か!’という感じで過剰に興奮してない。虎のまわりに折れ曲がる緑の竹と波
の白の明快な色彩表現がほどよい緊張感を生み、伝統的なビッグ対決の結末
を想像させる。やはり引き分けだろうか。
この絵の4年後に描かれた‘龍虎図’はがらっと変わって戦闘モード全開といっ
たところ。これを一層煽っているのが岩にあたって激しくうねる波濤。ガチ
ンコでぶつかるとどちらもたとえ勝ったとしても大きな傷が残りそう。
これは1900年パリ万国博覧会に出品され、銀牌を受賞した。
フェノロサのアドバイスを受けて描かれた‘騎龍弁天’の画風は芳崖の‘仁王捉
鬼図’と通じるものがある。波や雲間の渦の描写が動きのある立体感を生んで
おり、綺麗な顔をした弁天様とは対照的に龍が戯画チックで内気な表情をし
ているのがおもしろい。
広島県美で遭遇した‘風神雷神’は雅邦に親しみを覚える一枚となった。西洋画
を意識した明暗法や躍動感のある構図や線はこれまでみた風神雷神にはない
深みのある空間を思わせ、生き生きとした表現になっている。ウッドワンが
所蔵する‘紅葉白水図’は紅色と黄色の輝きに思わず声がでた。雅邦はなんとい
うカラリストか! 最晩年になってこれほどの色彩の力をみせつける花鳥画
を描けるのだから本当にスゴイ。