‘金閣寺’(1955年)
日本美術で最初に本物を体験するのは絵画よりも建築物と彫刻のほうが先。
これは修学旅行でもっとも印象づけられるのが奈良や京都で遭遇した法隆寺や巨大な東大寺であり、大仏や運慶・快慶の阿形吽形に仰天するからである。美術の教科書に雪舟の水墨画や宗達の風神雷神の絵が載っていても、成人して本物を実際目にするのは絵画が好きな人や美術館巡りを趣味としている人たちだけで、美術に普通程度の感心しかないとずっと縁がない。
その意味で有名な建築物については会話が成立し話がはずむことが多い。
その代表例が京都なら金閣寺。大量の金箔が放つ光のインパクトは絶大で
瞬時にアドレナリンがどっと出てくる感じ。一方、修学旅行ではパスする
銀閣寺は相当渋い。観音殿(銀閣)単独に惹かれるのではなく台形円柱の
向月台(こうげつだい)や銀沙灘(びんしゃだん)を含めた光景にぐっと
くる。ここには与謝蕪村の絵があり関心が高いのだが、公開の情報が得ら
れるずいつまでたっても強い縁で結ばれない。
広島にいたとき、バスツアーに参加して京都御所を訪問した。ここは春秋
2回一般公開されている(現在はどうなっているのかは確認できてない)。
一度はあの紫宸殿をみなくちゃという思いがあったので、広告チラシをみ
て即決した。即位式など重要な儀式が執り行われる紫宸殿は総檜造りの
寝殿造り、濃い茶褐色が荘重なイメージをつくりだしている。安政2年
(1855)の再建で正面柱間の高さは33m。だから、かなり大きい。
階段脇には右に‘左近の桜‘、西に‘右近の橘’が配されている。
和歌山県の観光スポットで忘れられないのが根来寺。名古屋からクルマを走らせ国宝に指定されている‘多宝塔’の前に立ったときは思わず、うわーと声が出た。工芸品に宝塔というのがあるが、多宝塔は円筒形の塔身に正方形の屋根をかけた宝塔に裳階(もこし、下の部分)を取りつけたもの。真ん中の鏡餅みたいなところのボリューム感と美しい屋根の姿を息を呑んでみていた。鎌倉にある円覚寺舎利殿は以前からなじみがあり、正方形の母屋に裳階をつけた典型的な禅宗建築に魅了され続けている。