歌川国芳に師事した絵師が多くおり、月岡芳年(1839~1894)はそ
のひとり。もっとも有名な‘月百姿’シリーズには国芳の影響が色濃くでてい
るが、もうひとつ魅了される絵がある。それが‘藤原保昌月下弄笛図’。強い
風が吹く秋の野に悠然と笛を奏でる藤原保昌の姿がじつにカッコいい。横
に保昌を襲う男が身をかがめている。この緊迫感は半端でない。
文明開化の浮世絵師として一世を風靡した小林清親(1847~1915)
は浮世絵に西洋の陰影法や遠近法をとり入れ、日々変化する明治の東京の
風景を‘東京名所図’として描き続けた。これは光線画と呼ばれ、光と影を駆
使しその独特な感性で叙情たっぷりに描きあげた。もっとも惹かれている
のが‘東京新大橋雨中図’。一見すると構図の取り方は広重の目に心地いい
風景画を思い浮かばせるが、明治の空気がよく伝わってくる新感覚の浮世絵
風景画という感じがする。
‘橋場の夕暮’は全体の印象は国芳がちらついてくる。それは画面の多くを占
める雲のフォルムや大きな虹が国芳の風景画と似た表現になっているから。
縦長の‘開化之東京 両国橋之図’をみるとジャポニスムに大きな影響をうけ
たホイッスラーの‘ノクターン:青と金色ーオールド・バターシー・ブリッ
ジ’とのコラボが頭をよぎる。ホイッスラーの絵が描かれたのは1872年
~75年のころだから、清親はこの絵をみたのかもしれない。
清親に弟子入りした井上安治(1864~1889)の‘日本橋夜景’も忘れ
られない一枚。浮世絵といういうよりはあるがままの風景を絵にしたという
イメージのほうが強い。光線画がさらに進化し、近代の風景画へと進んでい
る。