みてて惚れ惚れする仏像はそうはない。すぐ思いつくのは興福寺の‘阿修羅像’、
これが女性の美形の一番人気とすると、男性では東寺にある‘帝釈天騎象像’が
大スターの名にふさわしいことは間違いないところ。2011年、東博で開
催された‘空海と密教美術展’に出品され多くの仏像ファンを楽しませてくれた。
お釈迦さまのガードマンをつとめる帝釈天の美男子ぶりは半端ではなく、
映画の主役に抜擢されそう。通常白象に乗り、梵天像とペアで展示される。
大倉集古館でお目にかかった‘普賢菩薩騎象像’にも魅了され続けている。東博
で仏画の普賢菩薩をみて菩薩と白象の組み合わせがインプットされているの
で、ここではその姿が立体として表現されたこの美しい木彫仏をうっとりし
ながらながめていた。まだ残っている各種の截金文様には仏画と同じ感動が
沸きおこってくる。京都や奈良に足を運ばなくても東京のブランド美術館で
平安時代につくられた最高水準の作品にあえる、これだから美術館巡りはや
められない。
2006年にあった‘仏像 一木にこめられた祈り’に登場した‘菩薩半跏像’は
同じく国宝に指定されている‘十一面観音菩薩立像’(向源寺)同様、鑑賞欲を
とても刺激する傑作だった。片足を組んだ半跏の菩薩の姿が宙に浮いてい
るような感じなので、その神秘的な魅力にいっぺんで参ってしまう。複雑に
うねっている衣の表現とバランスのいいプロポーションにより見事な仏像が
一本の材木から生まれた。神業的な技術にほとほと感心させられる。
京都の神護寺で遭遇した‘薬師如来立像’はその畏れを抱かせる威厳のある顔
と重量感のある体躯のため一瞬体はフリーズしそうだった。そして、この緊
張感を和らげてくれるのが流麗な衣文線。彫りが深くパターン化された装飾
的な表現が心をとらえて離さない。この衣文の心地よさは唐招提寺にある
‘伝薬師如来立像’でも強く感じる。ギリシャ彫刻をみるような気分だった。