2012年の1月に北京故宮博物院からすごい絵がやって来た。特別展‘北京
故宮博物院200選’の超目玉として大勢の美術ファンの足を上野の東博へ運
ばせた‘清明上河図巻’(北宋12世紀)。会期は2ヶ月もあったのに、この図巻
は22日の限定公開。2回長い列に並び、ゆっくり進み描かれている人々の
姿、仕事や日常生活の様子、河の流れ、城門の景色を目に焼きつけた。海外
の美術館ではロンドンのロイヤルアカデミーで行われた‘モネの連作展’やパリ
のグランパレであった‘クールベ展’で2時間も並んだことがあったが、日本の
展覧会で作品をみるのに2時間も待たされたのはこれがはじめて。大変な展
覧会だった。
全長5mを超す絹本の図巻に描かれているのは北宋(960~1127)の
都、開封の内外の風景。郊外のシーンからはじまり、クライマックスの虹橋、
人々でごった返す通り、最後は駱駝を連れた隊商が通る城門、そして市街。
ここに何人いるか数えた人がいてなんと773人。とくに視線が釘づけにな
ったのは木組みだけで支えられたアート型の紅橋の下を進む船で艪をこぐ男
たちの力強い姿、河の流れが急で渦をまいてるところがあるから相当なエネ
ルギーを注がないと船をうまく前に進められない。その緊迫感がひしひしと
伝わってくる。これは見てて楽しい。
河岸には多くの実りを運ぶ船がおり、積みこむ米袋をお男たちがてきぱきと
並べている。城門の前やそこを通りぬけた市街では様々な光景がみられる。
都市の賑わう様子は今も昔も変わりない。お酒が飲める店はやはり賑やか。
やや高級な酒楼の本店ではたくさんの人がいい気分になっている。また、
庶民の食堂で食べている男たちも描かれている。大道で物を売るには話がう
まくないと誰も集まらない。寅さんのような男が熱心に商品を売り込んでい
る。
並んでいる店に目をやると床屋で髭をそってもらう男がいる。薬屋もあり
親子が店の者とじゃベっている。また、占い師の前で男が神妙な顔をしてご
託宣を聞いている。日本の洛中洛外図屏風のようなものが中国では12世紀
頃に描かれていた。生き生きとした風俗画を描きたいと思う絵師たちはどこ
の国にもいることをこの絵で知った。