‘デロス島のアエネアス’(1672年 ナショナル・ギャラリー)
‘クリュセイスを父のもとに返すオデュッセウス’(1644年 ルーヴル美)
‘海港、シバの女王の上陸’(1648年 ナショナル・ギャラリー)
ターナーの‘カルタゴを建設するディド’(1815年 ナショナル・ギャラリー)
日本人にとって風景画は日本画や浮世絵でお馴染みなので、海外の美術館で
は肖像画よりはみている時間がずっと長くなる。クールベや印象派が登場す
る前、風景画の画家ですぐ思い浮かべるのはクロード・ロラン(1604~
1682)。プッサン同様、本籍地フランス、現住所イタリアの画家でイタ
リアの芸術家社会の中で活躍した。
作品を多くみられるのはルーヴルとロンドンのナショナル・ギャラリー。
ルーヴルではプッサンが展示されている隣にあり、‘クリュセイスを父のもと
に返すオデュッセウス’につい惹きこまれて長く見てしまう。題材はホメロス
の‘イリアス’からとられている。ギリシャ神話の話を人物を大きく描くことで
絵画化するものはルネサンス絵画以降多くでてくるが、人物よりも背景の山
や森、海港、壮大な建築物が強く印象に残るようにしたのがロランの風景画
の特徴。白波のたつ青緑の海面を金色に輝く陽の光が浮かびあがらせている。
まさに港の一角からこの美しい光景を眺めているよう。
イギリスにロランが多くあるのは、18世紀に貴族や富豪たちが自然の美し
さをとりいれて‘風景庭園’を造るとき、17世紀のロランの風景画を手本にし
たから。ナショナルギャラリーにある‘デロス島のアエネアス’はその恰好な絵。
古代ローマに神殿が右にあり、真ん中には上手く配置された樹林、その向こ
うに海が広がり、遠くに目をやると光に満ちた光景がみえる。手前の人々の
集まりから視線を移動させると中景には母親と子ども、その先には船がゆら
ゆらしている。広い空間が感じられるのは風景画の大きな魅力。
NYのフリックコレクションでお目にかかった‘山上の垂訓’も構図の良さに
ひきこまれる感動の一枚。そして、ナショナル・ギャラリーでロランの‘海港、
シバの女王の上陸’とターナー(1775~1851)の‘カルタゴを建設する
ディド’が並んで飾られているコーナーも忘れられない。ターナーはロランの
熱烈な崇拝者だった。これは風景画の‘最高の瞬間’のひとつになった。