カラヴァッジョの‘ユディットとホロフェルネス’(1599年 バルベリーニ宮殿)
ジェンティレスキの‘ホロフェルネスの首を斬るユデイット’(1620年 ウフィツイ美)
マンフレーディの‘マルスに罰せられるキューピッド’(1605~10年 シカゴ美)
ホントホルストの‘大祭司の前のキリスト’(1617年 ナショナル・ギャラリー)
ローマのバルベリーニ宮殿はカラヴァッジョ(1571~1610)が好
きな人ならボルゲーゼ美とともに是非とも訪問したい美術館かもしれない。
ここには3点あるが、強い衝撃を受けるのが‘ユディットとホロフェルネス’。
これはまだ日本にやって来てない。主役を演じるユディットとホロフェル
ネスのほかにもうひとり老婆の侍女が描かれている。なぜか右のアクのつ
よそうな顔をした老婆の表情が目に焼きつく。ユディットは‘私にホロフェ
ルネスの首を斬り落とせるだろうか、と自信がなさそうなのに横にいる
老婆は目をむいてしっかりこの惨劇をみとどけている。脇役なのにユディ
ットより存在感がある。
カラヴァッジョの強いインパクトを与える光と影のコントラストやリアル
な人物描写に影響を受けた画家たちが大勢いる。こうした画家たちはカラ
ヴァッジェスキ(カラヴァッジョ派)と呼ばれている。そのなかでカラヴ
ァッジョと同じくらい魅了された作品が3点ある。バルベリーニ宮殿の絵
よりもっと強烈な首斬りの絵を描いたのが女流画家のアルテミージア
・ジェンティレスキ(1593~1653)。ウフィツィで‘ホロフェルネ
スの首を斬るユディット’をみたときは思わずうわーと声が出た。ユディッ
トは鬼の化身か思われるほどの姿で恐怖心は微塵もみせず、‘お前さんの首
をいただくからね、女と思って油断したのが間違いだったんだよ’と渾身の
力で首に剣を喰い込ませている。スゴイ絵をみた!
2008年シカゴ美に行ったとき、想定外のいい絵が飾ってあった。それ
は早くからカラヴァッジョの追随者だったマンフレーディ(1580~
1620)が描いた‘マルスに罰せられるキューピッド’。この絵で大変惹か
れたのが下で悲鳴をあげているキューピッドの肌の描写。子どものつるっと
した体がそのとおりに描かれている感じ。ベルリン美にある‘勝ち誇るアモ
ール’やローマのカピトリーノ美でみれる‘洗礼者ヨハネ’が目の前をよぎった。
あの男の子の肌の生な感じとそっくり。マンフレーディ、やるじゃないか!
ジェンティレスキ同様、お気に入りのカラヴァッジェスキがローマで活動し
たあと故郷のオランダ・ユトレヒトでカラヴァッジョ様式を広めた
ホントホルスト。この画家の名前を知った絵が2枚ある。ロンドンのナショ
ナル・ギャラリーで思わず足がとまった‘大司祭の前のキリスト’とエルミター
ジュでみた‘幼少期のキリスト’。どちらも1本の蝋燭の光が劇的な場面をつく
りだしており、ラ・トゥールの‘夜の絵’にも影響を与えている。