ローマのサン・ピエトロ大聖堂に足を運ぶと3度の至高の美術体験がある。
大聖堂内の壮大な空間、隣のシスティ―ナ礼拝堂に描かれたミケランジェ
ロの絵、そしてヴァチカン美にずらっと飾られた古代彫刻の傑作やダ・
ヴィンチ、ラファエロ、カラヴァッジョらの名画の数々。だから、じっく
りみるとここだけで一日がつぶれてしまう。
ヴァチカン美で‘最高の瞬間’がやってくるのは‘ラオコーン’の前に立ったとき。
これは紀元前2世紀の後半にペルガモンでつくられたギリシャのブロンズ像
をコーマ時代にコピーしたもので、ミケランジェロにもインスピレーション
を与えたといわれている。ギリシャ神話の話がこんな迫力のある彫刻で立体
化されるとトロイの神官ラオコーンの悲劇が生々しく感じられる。
美術の教科書に載っている‘円盤投げ’をテルミニ駅のすぐ前にあるローマ
国立博でお目にかかったときは大感激だった。こういう昔から知っている美
術品の本物をみるというのは本当に嬉しい。これはミュロン作のブロンズ製のオリジナルをローマ時代に大理石でコピーしたものだが、そのカッコイイ姿を目に焼きつけた。そして、ビックリ仰天だったのがブロンズ像の‘休息する拳闘士’。マッチョな拳闘士が目の前に座っているよう。これは大収穫だった。
カピトリーニ美に飾られている‘マルクス・アウレリウス像’の堂々とした姿も
忘れられない。この騎馬像はベラスケスがフェリペ4世の騎馬像を描いたときの
モデルになった。広場にあるのは本物のレプリカ。ローマ国立博には別館が
ナヴォーナ広場の近くにあり、そこでみた‘ルドヴィシ石棺(ローマ人とゲル
マン人の戦い)’に思わず足がとまった。ローマ人将校の厳しい目の表現がじ
つにリアル。戦闘の激しさはひしひしと伝わってくる。