‘舟遊びの昼食’(1880~81年 フィリップス・コレクション)
はじめてパリへ行ったのは40年前の1982年。この頃スイスのジュネー
ブに住んでおり、休暇を利用して憧れのパリを訪問した。定番の名所観光、
エッフェル塔とかモンマルトルの丘にも出かけたが最も楽しかったのはやは
りルーヴル美と印象派の殿堂、オルセー美。当時は趣味は美術鑑賞というほ
ど絵画にのめり込んでいなかったので、普通の観光客としてダ・ヴィンチの
‘モナ・リザ’やモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーギャンをワクワクしながら
みた。美術の教科書に載っている絵と対面するのだから、気分は目いっぱい
に高揚している。そして、生涯の想い出になった。
オルセーで‘最高の瞬間’が訪れたのはルノワール(1841~1919)の
‘ムーラン・ド・ラ・ギャレット’の前に立ったとき。モンマルトルの丘に庶民
の憩いの場があって、大勢の男女が踊りを楽しんでいる。その熱気がそのま
ま伝わってくる。もともと風俗画をみるのが好きだったのでこの絵に200
%嵌った。画業全体でみると印象派の技法で表現されたこの頃の作品にとく
にぐっときている。
ルノワールの群像画でもう一点すばらしいのがある。それはワシントンの
フィリップス・コレクションが所蔵する‘舟遊びの昼食’。ルノワールはこの
2点がMyベストワン!ある時期まで‘ムーラン’がベストワンを続けていたが、
日本にやってきた‘舟遊び’をみて、これもトンプランクにした。日本でお目に
かかった以上にこの絵にほれ込んだのが2013年にワシントンで美術館め
ぐりをしたとき。フィリップス・コレクションは邸宅美術館で‘舟遊び’はこの
絵専用の展示室にどーんと飾られていた。この光景をみて美術本に‘ルノワー
ルの絵をみるための世界中から絵画ファンがフィリップスコレクションに足
を運ぶ’と書かれていたことがよくわかった。この絵をみているとこちらまで
浮き浮きしてくる。
3点ある‘踊り’の絵で‘ブージヴァルの踊り’に一番惹かれている。この絵に心
を奪われたのは所蔵しているボストン美でみたときでなく、どういうわけか
日本であった‘ルノワール展’(2010年 国立新美)と‘光の賛歌、印象派
展’(2013年 東京富士美)で遭遇したとき。‘田舎’と‘都会’にくらべると
画面の縦横が大きいことと踊っている二人だけでなく後ろの椅子で談笑して
いる人物も描き込まれていることが画面に吸いこまれる原因かもしれない。