スーラの‘グランド・ジャット島の日曜日の午後’(1884~86年)
心理学を体系的に理解しているわけではないが、行動経済学や脳の話に強く
惹きこまれたため、放送大学で行われていた‘錯覚の科学’、‘認知心理学’、
‘認知神経科学’の講座にも首を突っ込むことになった。そして、心理学の
知識が増えてくると学者の理論にも敏感に反応する。‘ハーバードの人生を変
える授業’(タル・ベン・シャハー著 2015年 だいわ文庫 大和書房)
で知ったアブラハム・マズロー(1908~1970)の話にびびっときた。
マズローは‘ピーク・エクスペリエンスとは、人間として最高の瞬間であり、
人生における最も幸せな瞬間。恍惚や,歓喜や、至福を味わう体験’だと定義
している。そして、そのような瞬間は‘美の創造による恍惚感をともなった
深い芸術的な体験や、成熟した恋愛や完全なる性的体験、親としての愛情や、
自然出産の経験、その他多くのこと’によってもたらされるとしている。
長年続けている美術鑑賞を振り返ってみると、あれが‘最高の瞬間’だったな
思える特別な体験がある。そこで、新しいカテゴリーを立ち上げることにし
た。1回目は2008年にでかけたシカゴ美術館の話。
アメリカで美術館巡りを本格的にはじめたのは2008年から。有名な美術館
をまわる美術好きには嬉しい団体ツアーがみつかったのですぐ申し込んだ。
魅力は通常の‘アメリカ旅行’ではなかなか行かないシカゴが含まれており、
名所観光だけでなくあのシカゴ美にも入館するという。これはたまらない。
シカゴ美のお目当てはもちろんスーラ(1859~1891)の点描画の代表
作‘グランド・ジャット島の日曜日の午後’。この絵は門外不出だからここに来
ないとみれない。そう思うと嬉しさがこみあげてくる。画面に最接近したり、
少し離れたり心ゆくまで楽しんだ。まさに‘最高の瞬間’である。そして、もう
ひとつのハイライトがホッパー(1882~1967)の‘夜ふかしする人々’。
ホッパーも傑作にやっと出会えたいう感じ。スーラの絵同様、音はまったく聞
こえてこないが、こちらは大都会で味わう孤独感がひしひし伝わってくる。
入館して予想もしてなかったすごい絵が目の前に現れた。展示ホールにどんと
飾られているカイユボット(1848~1894)の大作、‘雨のヨーロッパ橋’。
美術本では知っていたが、こんなにいい絵だとは思わなかった。事前にガイド
さんからこの絵を見逃さないようにと案内があったが、その通りだった!
この絵でカイユボットの評価がぐんと上がった。絵はやはり本物をみないと
本当の価値がわからない。