世の中には‘三度の飯より小説が好き’という人が数多くいる。そういう人の集
まりでは、イギリス文学なら私にまかせといて、アメリカの短編小説だった
ら○○が最高だよ、といった会話がとびかうにちがいない。このなかにはとて
も入れないのだが、今年の3月に放送されたEテレの‘100分de名著
エドガー・アラン・ポー スペシャル’をみたおかげで今、わが家には文学ブー
ムがやってきている。
ポー物語の2回目は‘アッシャー家の崩壊’(1839年)だったが、ここに
興味深い‘ポーの文学理論’というのがでてきた。‘効果の統一こそはじつは芸術
家にとって世界中の寓喩(アレゴリー)を合わせても匹敵せぬほど重要なも
のだ’。効果(エフェクト)は驚きとか、結末のこと。ポーは小説において
倫理的な‘寓喩’よりも美学的な‘効果’を、さらに‘効果の統一’(驚きが結末にむ
かって最大限発揮されること)を重んじた。
このくだりではっとさせられたのがポーが読者の読書時間を1時間と想定して
いること。1時間で読み切れなかったら効果の統一を乱すとポーは考えている。
これまで短編小説には興味がなかったが、この話を聞いて‘なぜ短編小説だった
のか’、が腹にストンと落ちた。1時間で読める小説なら普通の読者の注意を引
きつけられる。‘効果の統一’が理想的な形で表現されたのが‘アッシャー家の
崩壊’だったのである。
短編小説の見方が変わったので、コナン・ドイルのホームズ物語の短編集
(‘シャーロック・ホームズの思い出’など)を楽しく読んでおり、最近購入した
‘教養としてのアメリカ短篇小説’(都甲幸治著 2021年 NHK出版)を
ガイド本にしてここで紹介されているメルヴィル、フィッツジェラルド、サリ
ンジャーらの作品を少しずつ読んでいこうと思っている。