浮世絵版画は歌麿の美人大首絵、北斎の富士山の連作、広重の名所江戸百景、
国芳のユーモラスな戯画などバラエティにとんでいていろいろ楽しめる。
そこに描かれるのは江戸における庶民の暮らしや風俗、日本全国に点在する
の旅の名所や絶景ポイント。当時はそれをとらえる写真や映像の技術がなか
ったので絵画がそれを伝える重要なメディアになった。時代が江戸から明治
になると、写真や報道映像が浮世絵にとってかわっていくが風俗画がなくな
ったわけではない。日本画家を中心に新しい表現方法を導入し時代の空気を
反映させながら人々の日常生活や楽しみ、季節の風物詩が詩情豊かに描かれていく。
鏑木清方展の見どころのひとつが明治20年代から30年代頃の東京下町の
様子が描かれた一連の風俗画。通期で展示される‘明治十二ヶ月’に魅了され
続けている。画像は右から‘花見 四月’、‘菖蒲湯 五月’、‘金魚屋 六月’、
今わが家のまわりも桜が満開だが、ただ眺めるだけ。来年は酒を飲みながら
花見に興じたいのだが、、果たして。
‘鰯’は下町の女房と鰯を売る少年の会話が聞こえてくるよう。見慣れた光景か
もしれないが、これほど気を惹きつける構図で表現されると唸ってしまう。本当に上手い!鎌倉市鏑木清方記念美でよくお目にかかる‘朝夕安居’も忘れられない一枚。これは夏の夕暮れ。麦湯、涼み台といった夏の風物が描かれおり、時間がゆっくり流れている。
‘十一月の雨’と‘汐路のゆきかい’は古い映画を思い出す。明治のころは花売りはこんな風にリヤカーみたいなもので花を運んでいたのか。小さい頃でもこんな光景はみなかった。川のそばで男の子が二人、長い細竹で鳥を落とそうとしている。その隣で女の子たちが仲良く手をつないで歩いている。この動きのある人物描写がなかなかいい。