‘バッハのアリア’(1913年 ワシントンナショナルギャラリー)
ピカソのキュビスムをイメージするとき、すっと入ってくるのがジョルジュ
・ブラック(1882~1963)。でも、お目にかかった二人の作品の数
はピカソのほうが断然多い。それはこれまでブラックの回顧展に遭遇した
ことがないことも影響している。ピカソもシャガールもレジェもマティスも
回顧展が開かれ画業全体の流れを通観する機会があったのに、どういうわけ
かブラックは登場してこない。
‘レスタックの陸橋’はキュビスムの序章を奏でる作品。木々の描き方はセザ
ンヌのさくさくしたタッチを受け継ぎ、遠くの陸橋と手前の家々はローアン
グルから立方体の幾何学的な造形を積み重ねるように表現している。その
ため、凸凹する感じの空間が陸橋まで続いているようにみえる。‘立つ裸体’
はピカソの‘アヴィニョンの娘たち’をみたあと刺激されて描いたもの。この
裸婦は頑丈な体つきでアフリカ芸術の痕跡はないが、体の形が部分的に見慣
れたフォルムから多視点のため、ねじれたりずれているのがみてとれる。
‘水差しとヴァイオリン’と‘ギターを持つ男’は西洋絵画の世界に衝撃をもたら
した分析的キュビスムの名画のひとつだが、ピカソが描いたものと見分けが
つかないくらい似ている。ブラックには悪いがこれだけをみるとピカソは
二つのサインをもっていたのではないかと思ってしまう。こういう場合、
どうしてもピカソの絵ばかりがインプットされ、ブラックにも同じような絵
があったね、となりブラックの作品が消えてしまう。
‘バッハのアリア’は分析的キュビスムからさらに進化した総合的キュビスムと
呼ばれるコラージュ作品。ブラックは音楽が好きで音楽的な静物画を描いた。
バッハはお好みの作曲家。バッハのアリアと文字が入っているのでまさしく
音楽を思い出させる。ほかにも‘モーツァルト クベリック’というのもある。