絵画好きの友人や知人と話がはずむときはいつも好きな画家のことを聞いて
いる。絵画鑑賞を長くなるとそれに伴って遭遇する画家の数が多くなるが、
作品の好みがどれも均等になるということはなく受け入れられる範囲のなか
でバラつてくる。自分の感性にもっとも合う画家が一番近くの円のところに
いて、その円は少しずつ真ん中から離れていく。どの画家が彼らの円のなか
にいるのかとても興味深く、好みの違いを確認するのもおもしろい。
ノルマンディ―のル・アーブル生まれのラウル・デュフィ(1877~
1953)が好きという友人がいる。昨年、Bunkamuraで開催されたポーラ
美名品展に一緒にでかけたとき出品されていた‘パリ’(1937年)に喜んでい
た。デュフィの回顧展はこれまで2回めぐりあった。また、鎌倉にあった
大谷美(現在はない)でも数点お目にかかった。アメリカの美術館ではどこ
にでもあるというわけではないが、デュフィが題材によく選んだ娯楽が描か
れたハーバード大フォッグ美の‘ド―ヴィルの競馬場、出走’とワシントンに
あるフィリップスコレクションでみた‘オペラ坐’が強く印象に残っている。
素早い筆さばきで競馬場やオペラ座の華やかな情景が明るい色彩でとらえら
れている。
デュフィはフランスの北の出身だが、南仏に住んでは地中海の陽光を浴び
て‘青のデュフィ’の異名をとるようになる。‘青はその諧調がどうであれ、
それ独自の特性を持ち続けている唯一の色彩である’と主張している。とても
惹かれる‘ニースのアンジュ湾’はたしかの紺碧からコバルトブルーまで黒が
まじりあった部分やハイライトなど諧調に差があるが、画面全部がオール青
で構成されている。
パリ市近美に行ったとき、デュフィとの距離がぐんと縮まった。画集に掲載
されている作品がいくつも目の前に現れた。思わず足がとまったのが緑の
田野を背景にした‘アルルカン’、足の発達した筋肉に自然と視線が釘づけに
なる。こんな姿で描かれたアルルカンはほかにみたことがない。
ここの自慢のデュフィが‘電気の精’。これは1937年のパリ万博から依頼さ
れた高さ10m、幅60mの巨大な装飾画。画面の上段では電気の発見によ
って大きく変容した環境が表現され、下段では110名の重要人物が勢ぞろ
いしている。左端に描かれているのが‘電気の精’。息を呑んで長くみていた。