‘自転車競走’(1912年 ワシントンナショナルギャラリー)
‘夜の聖マリア教会、ハレ’(1931年 フォン・デア・ハイト美)
ドイツ系アメリカ人のファイニンガー(1871~1956)をいつ頃知
ったか記憶があやふやだが、2008年横須賀美で日本ではじめの回顧展
に遭遇し関心が深まった。この年はシカゴ美でもう一度ファイニンガーと
縁があった。‘カーニヴァル’はカリカチュア画家としてお道化た風刺画を
描いていた初期の作品。おもしろいのは真ん中でラッパを吹いている男性
が背景の建物や水道橋と釣りあいをとるため極端に引き延ばされ歪んだ
プロポーションになっていること。陽気なカーニヴァルの光景なのでこの
人物表現が気にならない。
‘自転車競走’はイタリア未来派の描き方がかぶってくる。散歩をしている
と時々競技用の自転車を黙々と漕いでいる人に出くわす。一体何時間走る
のだろう。時速はどのくらい、30キロ? 立派な太腿は相当な距離
を走った証のようにみえる。スピードの象徴として未来派が車輪の回転に
目をつけたのはよくわかる。競り合う5人の自転車乗りを横からキュビス
ム流に角々するフォルムでとらえた姿がすごく力強い。
圧倒的な存在感をみせているのが‘自画像’。ファイニンガ―は1911年
パリに短期間滞在し、はじめてキュビスムに接する。異様に首が太く、
多視点から分解された顔は割れたガラスを継ぎはぎしたよう。そして、
赤茶色の面に変容した頭も強く気を引く。じっとみているとマルクが描い
たトラの目を思い出した。
ファイニンガーが人物からモチーフを変えていったのが教会などの建築と
バルト海を中心とした海景。その特徴は幾何学的に整理されたフォルムと
光が突き進む感じの透明感。連作シリーズの‘夜の聖マリア教会、ハレ’と
‘西の海’に魅了される。ファイニンガーの海景画は自転車競技のように爽快
に移動するイメージがする。そして、ここでもキュビスムの多視点が使わ
れているので空間が複雑に重なってみえるのも刺激的。