画家を覚えるとき作風の特徴で印象づけたり、生まれた国でグルーピングし
たりする。どちらのほうが頭に入りやすいかはどういう観点で絵画に向き合
うかによるが、国で画家をまとめるほうがいいときもある。それはイタリア
の画家なら誰が一番スゴイか、というように自分なりのランキングをつけて
みると、画家の大きさや腕の確かさなどがより強く認識されるから。
フランスにもいい天才画家が数多く出現しているが、やはりドラクロア
(1798~1863)をランキング1位にもってきたくなる。ルーヴル美
でフランスの誇りともいえる‘民衆を導く自由の女神’をみてしまうと、どう
してもこうなる。三色旗を掲げて先頭を走る自由の女神のたくましく美しい
姿と両側にいる銃をもつ少年とシルクハットを被った若い男が民衆革命の激
しさや高揚感をライブ実況のように伝えている。この3人でつくる三角形構
図は美術の教科書のお手本みたいなもの。
ロマン派のドラクロアは神話や文学作品、歴史的事件を題材にとりあげ、
鋭い動感描写と人物の内面を映す表現によってみる者の心をゆすぶり強い
刺激を与える。‘怒りのメデイア’ではギリシャ神話にでてくるイアソンとメ
デイア物語をほかの誰れよりも狂気化した怖いメデイアに仕立て描いている。
これと同じような緊迫感に満ち満ちているのが‘地獄のダンテとウェルギリウ
ス(ダンテの小舟)’。ダンテの‘神曲’というとすぐこの絵を思い浮かべる。
‘キオス島の虐殺’は犠牲者たちの放心した様子が目に焼きついている。戦争
のもつ暴力性や残虐さが民衆をどれだけうちのめすかを深く訴えかける作品
である。‘アルジェの女たち’はハーレムに生きる女たちを彩る色彩の力が強
い日差しにより浮き彫りにされている。この色彩の輝きが忘れられない。