絵画を鑑賞したとき大きな感動がわきおこり心が異常に高揚することがある。
それは歴史画とか肖像画とか風俗画ではなく風景画の大作。たとえば、雄大
な山々が描かれた大自然やロマン主義全開の宗教がかった天地創造をテー
マにしたもの。過去にこうした鑑賞体験は3度くらいある。メトロポリタン
で遭遇したハドソンリバー派のコール、チャーチ、ビーアスタッド、ロンド
ンのテートブリテンに飾ってあるジョン・マーティン、そして、ロシアの
画家 アイヴァゾフスキー(1817~1900)。
アイヴァゾフスキーに出会ったのはロシアのサンクトペテルブルクではなく、
ここにある国立ロシア美の名画が東京都美で披露された展覧会(2007年)
4点展示されたが、200%KOされたのが‘アイヤ岬の嵐’。こんなスゴイ
絵がロシアにあったのか。画面のサイズは縦2.1m、横3.2m。海が荒
れ狂い大きな波濤に翻弄され沈没寸前の船と生き延びようと必死でボートを
漕ぐ水夫たちが描かれている。難破船の絵はターナーにもあるが、こちらの
ほうが迫力満点でじっとみていると海面の大きなうねりで酔ってしまいそう
になる。ターナーもこれをみたら裸足で逃げるだろう。
‘天地創造’は海景画とからめた宇宙の創造、万物のはじまり。マーティンは似
たような画風の‘神の怒りの日’をゴツゴツした岩山を舞台のもと表現している
が、アイヴァゾフスキーはお得意の海と火山がカオス的に混合する光景とし
て描いている。モスクワのトレチャコフが所蔵する‘嵐の海’は‘アイヤ岬の嵐’
とは趣が異なり、まだ嵐の序盤といった感じ。海の澄み切った青や遠景に見
える白山の美しく輝く姿が強く印象に残る。
月の光が海に反射して感動的な光景をつくりだしている‘月夜’も傑作。アイヴ
ァゾフスキーが生まれたのは黒海沿岸の商業都市フェオドシア。小さい頃か
らいろいろな表情をもつ海とともに生きてきたから、海が一番美しく輝くの
を知りつくしているにちがいない。岩壁にそびえ立つ要塞にはかすかに灯が
ともり、月明りに呼応している。