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Channel: いづつやの文化記号
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Anytime アート・パラダイス! シーシキン

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   ‘森の散歩’(1869年 国立トレチャコフ美)

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    ‘ライ麦’(1878年 トレチャコフ美)

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  ‘伯爵夫人の森で’(1891年 トレチャコフ美)

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  ‘針葉樹林、晴れの日’(1895年 国立ロシア美)

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     ‘冬’(部分 1890年 ロシア美)

趣味で‘日本の百名山’をまわっている知人がいる。世の中には登山や山歩きが
好きな人はたくさんいるので、とくべつな行動とも思わないが達成するのは
かなりの年月を要するだろう。わが家は国内で旅行先を選ぶときは内陸部よ
り美味しい魚が食べられる海に近い観光地のほうが多いが、山の景色がすば
らしい名所スポットは結構行っている。でも、それはハイウエーコースをク
ルマで走るとか観光バスの中から眺めるだけで、足を動かして絶景がみれる
ポイントまでたどりつくというスタイルではない。

例外的に森のなかをだいぶ歩いた経験があるのは青森県の奥入瀬。渓流沿い
に進んでいくのはとても気持ち良かった。みんなが奥入瀬渓流はいいよ、と
いうのがよくわかった。こういういい思い出を胸にひめてロシアの有名な
風景画家イワン・シーシキン(1832~1898)の森の絵をみると、森
林浴の気分がよみがえってくる。海外のブランド美術館でこの画家の作品を
見る機会はほとんどないので、日本で開かれたトレチャコフ美&ロシア美の
名品展で抒情性のある風景画に遭遇したのは生涯の思い出になっている。

風俗画と風景画をかねそなえた‘森の散歩’は印象派が描く草原や花園を楽しむ
人たちとはちがい華やかさはないが、着飾った家族や男女のくつろいだ姿は
森の美しさを十分伝えている。手前にいる犬まではしゃぎまくっている。
一方、老人が一人いるだけの‘モルドヴィノワ伯爵夫人の森で’は垂直にのびる
エゾ松の林立する光景に大変魅了される。じっとみていると長谷川等伯の
‘松林図’とか菱田春草の‘落葉’が頭をよぎってくる。

トレチャコフにある‘ライ麦’も傑作である。モネが描いた連作のひとつに‘ポプ
ラ並木’があるが、それと同じくらい印象深いのがライ麦畑のなかに上手い
具合に配置された大小の松。音が消えたような静かな光景にとても愛着をおぼ
える。そして、同じく人気のない‘針葉樹林、晴れの日’、‘冬’にも心を打たれる。
惹き込まれるのが緑の枝の間からもれてくる柔らかい陽の光や積もる雪に感じ
られるかすかな光の反射の描写。本当にすばらしい!


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