‘休息 妻ヴェ―ラ・レーピンの肖像’(1882年 トレチャコフ美)
レーピンのイメージはロシアの社会、民衆を平明なリアリズムで描いた人間
臭い作品と肖像画の名手によってできあがっているが、このほかにフランス
の印象派を思わせる作品もある。35歳のときに描かれた‘あぜ道にて 畝を
歩くヴェ―ラ・レーピンと子どもたち’はすぐルノワーやモネの家族を描いた
風景画が頭をよぎった。レーピンは1870年代半ばにパリに住んでおり、
3,4歳年上の二人の作品の影響を強く受けている。
そして、国立ロシア美が所蔵する‘何という広がりだ!’は波のもっている爽快
感と若い男女の青春愛に心が打たれる傑作。レーピンがこんなロマンチック
な場面を激しくうねる波の動きのなかに美しく溶け込まして表現していたと
は! 画風に多様性があるのは天才の証ということを思い知らされる一枚で
ある。
肖像画のモデルは家族、同業の絵描き、皇帝、作曲家、音楽家、作家、、と
いろいろ登場する。眠っている妻を描いた‘休息’は女性肖像画のなかではもっ
とも気に入っている。眠っている人物の肖像はあまりみたことがないので、
とくべつ惹かれるのかもしれない。また、5歳の息子ユーリーの肖像もとて
も可愛いい。
女性にくらべると男性のモデルへの関心は弱まるが、‘ムソルグスキーの肖像’
をみたら、それも即座に取り消したくなる。♪♪‘展覧会の絵’で有名なムソル
グスキー(1839~1881)が目の前にいるのだから、レーピンを別格
扱いの画家にしても間違いはないだろう。音楽家ではほかに同い年のリムス
キー=コルサコフ(1844~1908)も描いている。そして、文豪トル
ストイ(1828~1910)!ロシア文学をを象徴する作家がこうして肖
像画になっているのだから、レーピンの凄さがうかがわれる。