リリーの‘キルデア伯爵夫人エリザベス’(1677年 テート美)
ロムニーの‘ハミルトン夫人’(1782年 フリック・コレクション)
ロムニーの‘キルケ―に扮したハミルトン夫人’(1782年 テート美)
ヘンリーの‘東と西’(1904年以降 スコットランド国立美)
ピーター・リリ―(1618~1680)はオランダ出身の画家でヴァン・
ダイクが亡くなった1641年にロンドンに渡り、共和政時代と王政復古期を
通じてすぐれた肖像画家として名をはせた。ぞっこん参っているのは‘キルデア
伯爵夫人エリザベス’。上流階級の女性の肖像画は実物以上に脚色して綺麗に
描くのは常識だが、エリザベスの美しさは伝説的といわれるほどだったので
リリーはどんな演出でその美貌をひきたたせるかを考えるだけでよかった。
エリザベスは純潔の象徴であるオレンジの花をもっている。
‘レイク家の姉妹’はとくべつ魅力的な女性という印象はうけないが、左の女性
が弾いているギターのことがとても気になる。17世紀のギター音楽は掻き鳴ら
すというより軽く爪弾くものだった。くつろいだ感じが宮廷の婦人のとっつ
きにくさをやわらげている。
レノルズのライバルでもあったジョージ・ロムニー(1734~1802)の
ハミルトン夫人の肖像画に魅了され続けている。彼女はTVのバラエティ番組
に出演している売れっ子タレントのような感じがする。貧しい家庭に生まれた
が可愛いので下院議員の愛人になったりして自由奔放に暮らした。後年はネル
ソン提督の妾にもなった。NYのフリック・コレクション蔵もテートにあるの
もチャームポイントの愛嬌のある目が心をとろけさせる。イギリスではこうい
う生感覚のする女性の肖像にも、ロセッティの圧の強い‘プロセルピナ’にも遭遇
できるのだから腰をすえて美術館をまわったら本当に楽しいだろう。
日本の人形のやきものをみている美しい女性にうっとりする‘東と西’は15年く
らい前?、日本で開催されたスコットランド国立美展でお目にかかった。描い
たのはスコットランド出身のジョージ・ヘンリー(1858~1943)。
この画家は日本へ旅行し(1893~94年)、ジャポニスムの影響を強くうけ
ており、芸者などを描いている。帽子をかぶったこの女性の姿が忘れられない。