ロセッティにはダンテの‘神曲や‘新生’を題材にした作品がいくつか
ある。自身の名前もイタリアからの政治亡命者でダンテの研究者だっ
た父からダンテ・ゲイブリエルと授けられている。‘新生’の一場面が
描かれているのが‘ダンテの夢’。ダンテは愛するベアトリーチェが亡
くなり、婦人たちが亡骸にヴェールを被せる情景の幻影を見た。‘愛’
が擬人化された天使は生気の失せたベアトリーチェを抱擁しそれを
じっと見つめるダンテの手を握っている。とても魅せられる一枚な
ので本物との対面する日がくることを強く願っている。
水彩画の‘ベアトリーチェの一周忌’は愛する人の一周忌に天使を描い
ていたダンテのところへ友人たちがやってきた場面、ダンテは沈んだ
表情をしておりまだ立ち直れていない感じ。肩に手をかけた男は
‘大丈夫かい、ダンテ’と優しい言葉を慰めている。心を打つ作品にな
っているのはダンテを尊敬するロセッティの感情が深く入っている
からかもしれない。
1877年に描かれた‘アスタルテ・シリアカ’は画家の晩年の代表作
でモデルのジェーン・モリスが扮するのは古代シリアの愛の女神アス
タルテ。ジェーンは3年前‘プロセルピナ’に登場した女性だが、ここ
では正面向きの姿でその美貌をみせている。後ろの二人もジェーン?
一人の女性が回転しているのだろうか。
‘祝福されし乙女’はロセッティが書いた同名の詩を絵画化したもの。
先に天国に行った女性が地上に残してきた恋人と再会する日を待つと
いう物語。下のプルデッラで手を頭にのせて横たわっている男性が
恋人、彼女のまわりは再び結ばれた恋人たちが抱擁をかわしているの
で、次は彼女の番かなと思うが悲しいことにその願いはとどかない。
この絵が日本にやってきたときは息を呑んでみていた。
初期の作品‘聖母マリアの少女時代’は人物の配置がとてもよくすっと
画面のなかに入っていける。ロセッティの母親と妹がモデルをつとめ
ているので親子の情愛がそのままでており、画題との親和性がぴった
りはまっている。