女性の絵はダ・ヴィンチの‘モナリザ’からはじまっていろいろなタイプがある。
だから、どの絵が一番グッとくるかと尋ねられても返す答には複数の絵をなら
べるしかない。そこに必ず入るのがマネ、ルノワールとラファエロ前派の
ロセッティ(1828~1882)。ロンドンではじめてロセッティの絵を
みたのは今のテート・ブリテンがテート・ギャラリーと呼ばれていた頃、当時
はダリの絵なども展示されていた(現在はテート・モダン)。インパクトの強
かった作品として思い出されるのがターナー、ダリとロセッティの‘プロセル
ピナ’。
縦長の画面いっぱいにロセッティが描いたのは神話に登場する人物で大変魅了
されたプロセルピナ。なんとも圧の強い女性である。とくに目が奪われるのが
カールのかかった長い黒髪と身につけている衣裳の濃厚で深い緑、そして濃い
赤の唇と柘榴の実。女性の上半身だけが強調されているのでふと歌麿の大首絵
美人画がかぶってくる。この絵についてはよく官能的といわれるが、目はそれ
ほど誘っている風でもなくしっかりした女性というイメージがあるから大女優
のオーラを感じてしまう。
これに対し、神秘的な雰囲気が漂っているのがダンテの愛したべアタ・ベアト
リーチェをロセッティの伴侶エリザベス・シダルに見立てて描かれた‘ベアタ・
ベアトリクス’。絵全体に靄がかかっており、光に照らされた目をつぶっている
シダルの顔の部分だけが浮き上がっている。現代版のダンテの世界が精神性の
強い女性として表現されているところにスゴく惹きつけられる。
ロンドンのヴィクトリア&アルバート美でお目にかかった‘白日夢’も傑作だった。これも‘プロセルピナ’同様、画面の大半を占める濃い緑が強い磁力を発している。
‘モンナ・ヴァンナ’と‘レデイ・リリス’は超上流階級に属する女性が目の前に現れた感じがする作品。華麗な衣裳に加え宝飾品やまわりの花が女性の魅力をいっそう高めており、とても近くにはいけない。モデルはともに黒髪ではなくゴージャスさを演出するにはもってこいの金髪。まだ縁のない‘レディ・リリス’は夢のなかで会うしかなさそう。