‘マルタ・ディックス夫人の肖像’(1928年 フォルクヴァング美)
海外の美術館を日本で実行しているように一度に何館もまわった経験がある
のはヨーロッパの都市でいうとパリ、ニース、ロンドン、ローマ、フィレン
ツェ、ヴェニス、ミラノ、マドリード、アムステルダム、ブリュッセル、
ブリュージュ、ブダペスト、プラハ、ウィーン、コペンハーゲン。ここに
入ってないのがドイツの都市。ベルリンの博物館とミュンヘンとドレスデン
にある古典画美術館には縁があったが、わずか3つだから馴染みが薄くなる
のも仕方がない。これは団体ツアーでドイツを旅行する機会が少ないことが
関係している。フランス、イギリス、イタリア、スぺインに較べるとどうし
てもドイツ観光の優先順位が下がるのである。
美術館で本物の絵をみることがないので気になるドイツ人画家はいても、
断片的な作品情報により作風のイメージが固定されているのが実情。オット
ー・ディックス(1891~1969)はポンピドーが所蔵する‘シルヴィア
・フォン・ハルデン’で名前がインプットされ、消えることがない。
描かれた人物は実は女性ジャーナリストだが、ある時期まで男性とばかり思
っていた。顔と髪型で判断すると、日本にもこういうタイプの文芸評論家は
TVなどによくでてくるから、そのイメージですっと入っていった。でも、
よくみると赤い口紅をしワンピースを着ているのだから女性に間違いない。
ディックスはカリカチュア趣味と結びつけて独自の人物描写を生み出した。
‘マルタ・ディックス夫人の肖像’を日本の美術館でみたとき、瞬間的に頭を
よぎったのは歌手の弘田三枝子(知っている人は知っている)。そして、
ドイツ映画にでてくる圧の強い女性も微妙に絡んできた。どうでもいいこと
だが、人の顔をみるのが好きなので、散歩していてもよくすれ違う人の顔は
忘れない。以前、JR渋谷駅の近くでサングラスをかけ帽子を被った女優
の常盤貴子が歩いているのを目ざとく発見した。自慢気に話をすると隣の方
からは‘刑事にむいているのでは’と茶化されてしまった。‘ハーマン博士’の
肖像もどこか漫画チックなところがある。
‘サロンⅠ’と‘大都会’は興味をひく風俗画で大都会の人間模様が写実性と戯画
調をミックスして描かれている。‘サロンⅠ’の右の3人のうち真ん中の目の
大きな娼婦は客からよくお呼びがかかりそうな美貌の持ち主として描かれて
いるが、ほかは漫画のコマからとびだしてきたよう。これは‘大都会’でも同じ。
タキシードに身をつつんだ男性陣は本人そのものの感じだが、派手な衣装を
着た女性たちは歓楽の象徴としてドギツくデフォルメされている。