‘トランプ遊びをする人々’(1966~73年 ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美)
数多く描かれたバルテュスの少女像はどれもこっそり部屋に呼ばれて‘声をだ
さずみてください。立ち位置を絶対変えてはいけません’と要請されている
感じ。‘美しい日々’は一度訪問したワシントンのハーシュホーン美が所蔵して
いる作品だが、館内をまわったときは展示されてなかった。お目にかかった
のは2014年東京都美で開催された大バルテュス展。目を惹くのは左膝を
立て手鏡を見ている少女。強い磁力を放っているので右で暖炉に薪をくべて
いる男への関心が薄くなる。
手鏡をみるポーズが裸婦でも繰り返されているのが‘トルコ風の部屋’。この
モデルをつとめているのは1967年にバルテュスと結婚した日本人の生田
節子さん。1962年、バルテュス(54歳)が日本にやって来たとき知り
会った。節子さんは当時20歳で上智大学フランス語学科に在学中だった。
この絵はモチーフの平板な描写と壁布、タイルの装飾的な模様からマティス
の絵をすぐ連想した。ポンピドーではなく東京都現美に出品されたのをみた
が、その頃はバルテュスを知らなかったので東洋趣味だけが記憶に残り、
裸婦は中国人にみえた。30歳以上も離れた日本人恋人だったとは!
MoMAにある‘居間’は緊張感を強いられる少女像。はっとさせられるのが肘
と膝をついてうつぶせに横たわり本を読んでいる少女。こんな格好で女の子
は本を読むのだろうか?素朴な疑問がわきおこる。このぴんと張り詰めた
空気に対して、頭の前のいる白い猫はソファにいる子同様眠っている。ここ
でも強い要請があるため、体は動かせない。MoMAにはこの絵をふくめて
3点のバルテュスがある。
2014年の回顧展で大収穫だったのが‘地中海の猫’、ハイブリッドな雄の
猫人間が海にかかる虹からでてきた魚を食べようとしている。こりゃ、参っ
た!ダリの絵に魚から虎が飛び出してくるのがあるが、虹が魚の群れに変容
するアイデアはこれからもらったのかもしれない。猫は牝のイメージがこび
りついているから、ズボンをはいた猫がとても新鮮に映る。
暴力性をみせる猫の怖い顔と同じくらい陰気で残忍な性格が表情にでている
のが‘トランプ遊びをする人々’。楽しいトランプの遊びにこんなキツイ目を
する必要はないはずだが、この男女は大きな賭け金で勝負をしているのだろ
うか。