新型コロナウイルスの新規感染者の数は日本では全国的に減少してきたが、
自宅治療で不安な日々をすごす人たちはまだ多くおり医療体制のひっ迫状況
が改善されるのはまだ先になりそう。来年の後半あたりから海外旅行の計画
をアバウトに考えることができるかもしれないが、強い変異株がでてきたり
するとお楽しみがさらに後にずれ込む。こういうときは自然の絶景を描く
風景画より、街のリアルな雰囲気が感じられるユトリロのパリの絵のほうが
ありがたい。都市における生活感や賑わいぶり、その裏側の影が人間臭く描
かれているとその場所にでかけてみたいという気持ちがより強くなっていく。
パリの街を描いた画家はほかにも多くいるが、絵にある街の通りを歩いてみ
たいと思わせるのは日本人画家の佐伯祐三と藤田嗣治、そして1908年
パリに生まれ2001年に亡くなったバルテュス。NYのMoMAにある
‘街路’がバルテュスという画家を知った最初の絵。パリのある通りの光景が
ここにあるが、ユトリロの‘色彩の時代’にでてくる人物描写とは趣が全然異な
る。なにかただならぬ雰囲気をたたえている。登場する人たちには夫々の
物語があり独立した劇をみているような感じ。大作の‘コメルス・サンタンド
レ小路’も同様にひとり々が静寂のなか自分の世界に浸っており、目には見え
ないが境界線が張られている。
メトロポリタンに出かけるとバルテュスとの縁が深まる。‘山(夏)’は強い
日差しを浴び両腕を上にあげのびのびした表情をみせる女性とその足元で影
の中に沈みこみ眠っている娘に視線が集中する。この寝姿はプッサンの‘エコ
ーとナルキッソス’にでてくる横たわるナルキッソスを参考にしている。バル
テュスは古典画のピエロ・デッラ・フランチェスカやプッサンから大きな
影響を受けている。立っている金髪の女性はバルテュスと結婚したばかりの
アントワネット。
バルテュスがロリータ趣味から何点も描いた少女テレーズのシリーズではも
っとも人気のある‘目を覚ましたテレーズ’と‘夢見るテレーズ’もMETの所蔵。
どちらも日本にやって来た。テレーズは近所に住んでいた少女で‘目を覚まし
た’は強い存在感をみせている。これに対し‘夢見る’のほうはどこか大人じみ
た感じも漂っている。