バーン=ジョーンズの‘愛に導かれる巡礼’(1896~97年)
昨年7月テレビ東京の人気番組‘美の巨人たち’でターナーの‘戦艦テメレール’がとりあげられたとき、興味深い話が盛り込まれていた。それは2005年にBBCラジオが行ったアンケート結果。
質問は‘イギリスでみることのできる最も偉大な絵画は何か?’というもの。ベスト10のなかで6つがイギリスの画家の作品。その顔触れの半分はなるほどと思ったが、半分は意外なものだった。ランキングの上からあげてみると、
1位 ターナーの‘戦艦テメレール’
2位 コンスタブルの‘干し草車’
5位 ホックニーの‘クラーク夫妻とパーシー’
7位 レイバートンの‘ウォーカー師’
8位 ブラウンの‘イギリスの見納め’
10位 ホガースの‘放蕩息子一代記’
ターナーやコンスタブルがイギリス国民に大変愛されている画家であることはよくわかる。わからないのはここにミレイ(1829~1896)の‘オフィーリア’もロセッティ(1828~1882)の‘プロセルピナ’も入ってないこと。同じラファエロ前派のブラウンの名前があるのに。
‘オフィーリア’はイギリス人にとっては偉大な絵画ではないのだろうか?イギリス国内で長いことミレイの回顧展が行われなかったのはこの画家の愛され度が関係しているのかもしれない。
今回ミレイの作品は6点、いずれも魅力的な作品だが08年Bunkamuraであった回顧展でも展示された。何度対面しても言葉を失いじっとみてしまうのが‘オフィーリア’、こんな傑作がベスト10にあがってこないのが不思議でならない。
‘両親の家のキリスト’もお気に入りの一枚。視線が向かうのは中央の左手を釘で傷つけたキリストではなく、右端で傷を洗うために水をもってきたヨハネ少年。その目がじつにいい。こういう少年はどこにでもいる。この絵は宗教画ではあるが日本の浮世絵でいう見立て絵と同じ発想。普通の人たちの日常生活に置き換えて描いているので宗教臭さがなくすっと入っていける。
スタンホープ(1829~1908)の‘過去の追想’は非常に気になる絵。この気持ちは東京都美ではじめてみたときと同じ。女性の表情はどうも冴えない、感情の起伏が激しそうにはみえず、どちらかというと内向的な性格でなにか気の晴れないことをずっと引きずっている感じ。この絵をみるたびにドガの‘アプサント’を思い浮かべる。
今回でていた作品のなかで一番のサプライズはバーン=ジョーンズ(1833~1898)の描いた‘愛に導かれる巡礼’、縦1.57m、横3.05mの大作、美術本では見慣れた絵だがこれほど大きな絵だったとは!左に描かれた頭巾を被った巡礼者はちょっと不気味。横を向き腰を老人のように大きく曲げているのでぱっとみると悪魔と見まがう。この絵を日本でみれたのは幸いだった。ミューズに感謝。