‘コンポジションⅩ’(1939年 ノルトライン=ヴェストファーレン美)
1991年に開催されたグッゲンハイム美名品展で‘さまざまな円’にお目にかか
ったときは色つきシャボン玉の乱舞をすぐ連想した。それから時が流れ、今こ
れをみると現代宇宙論で唱えられている‘マルチバース(多宇宙)’を表すのに
ピッタリの絵だなと思う。宇宙はわれわれの宇宙だけでなく多くの宇宙が存在し
生まれたり消滅している。頭がくらくらし気が遠くなるような話だが、カンデ
ィンスキー(1866~1944)のお蔭で宇宙はひとつではないという仮説
にもよちよちついていけるようになった。
シュルレアリストのミロ(1893~1983)のユーモラスな作品と親和性が
いいのが‘空の青’。カンディンスキーはこのとき74歳、描かれた奇妙な生き物
とすぐ結びつくのは海のプランクトンなどの微生物。子どもが喜びそうな小さ
な生き物を自由に想像し青い空に遊ばせるという発想がとびぬけてスゴイ。ひと
つひとつの物体に個性があり、部分的に亀の甲羅や鳥の嘴をイメージさせるハイ
ブリッド微生物の誕生に大人だっておおいに興奮する。
‘空の青’の翌年に制作された‘さまざまな動き’はさらにミロの祝祭的な楽しさに満ち々ている。ここでは微生物らしきものは細部の模様が無くなり様々な色面が組み合わさった柔らかい曲面に変容し自由に動き回る生き物に進化している。踊る舞台の演出も凝っており、梯子や組みひもや幾何学模様のパネルなどがみえる。
‘コンポジション(構造)’というタイトルでグルーピングされた作品はカンディンスキーがパリに逃れた1933年の3年後に‘Ⅸ’が描かれ、1939年の‘Ⅹ’で完結した。この2点はユーモラスさや自由な喜びといった雰囲気は消え、神秘性や宇宙的な広がりが深まった感じがする。個々のフォルムをみるとプランクトンのかけらは残っているが、背景の表現が装飾的になっている。‘Ⅸ’は斜めにのびる4つの色面が意匠性をおびの上に置かれた円や四角のモザイクやひらひらなびく七夕などを引き立てている。‘Ⅹ’はインパクトのある黒の背景が宇宙の彼方を連想させ、様々な形態した宇宙船が互いに響き合いながら進んでいるよう。