広重は江戸の桜の名所を三枚続きのワイドスクリーンを使って描き江戸っ子
を喜ばせた。上野、浅草金龍山、飛鳥山、そして品川御殿山、とくに魅了さ
れるのが花見と海景画を合体させた‘東都名所 御殿山花見 品川全図’。
東海道第一宿として栄えた品川宿は春になると桜見物が加わるのでこの界隈
の遊興はエンターテイメント全開モードになる。それはそれは楽しかったこ
とだろう。
‘東都両国遊船之図’もみてて浮き浮きする一枚。夏の風物詩である両国の花火
が船の視線から描かれている。3枚を貫いてかかる両国橋の橋脚の圧倒的な
存在感が目に焼きつく。川には客を乗せた小型船がたくさん浮かんでおり華
やかな花火に皆ご機嫌といったところ。東京の花火は来年になったらみれる
だろうか。
広重は風俗画家として人々の日常の営みを抒情性豊かに描いてみせた。‘名所
江戸百景’シリーズの‘猿わか町よるの景’は通りを歩く人々が主役。ここは天保
の改革で浅草寺裏に強制的に移転された猿若町の歌舞伎小屋。ハッとするの
は一点透視図法で描かれた奥行きのある通りとそこにできた行き交う客たち
の影。なんだか西洋画をみているよう。
国芳も大勢の人たちを描いてみせたが、広重も同様に画面一杯に男女を登場
させている。‘伊勢参宮宮川の渡し’はその極め付きのワイド画面版。伊勢神宮
前の宮川を渡る御蔭参りの人々が足の踏み場もないくらい密に描かれている。
死ぬまでに一度伊勢神宮へ行きたい!皆の強い思いがこんな大にぎわいの人
の流れをつくりだしている。男の子の遊びをたくさんみせる絵をみていると
小さい頃楽しんだ遊びが思い出される。