‘婦人人相十品・煙草の煙を吹く女’(1792~93年 シカゴ美)
浮世絵版画の美人画で人気の絵師というと鈴木春信(1725~1770)、
鳥居清長(1752~1815)、喜多川歌麿(1753~1806)の
3人。同じ美人画のジャンルでバトンとリレーしてきたが、清長のあとに登場
した歌麿は革新的な描き方を生み出した。それは画面いっぱいに女性の顔を
描く大首絵。
なぜ、美人大首絵が生まれたのか。それは歌麿には女性がみせる生の表情や
しぐさをしっかり表現したいという思いがあったからである。清長のように
長身の女性を立ち姿で描くだけでは‘おおー、美人画が描いてある!’それでお
わり。もっと最接近して生感覚で女性をとらえたい。顔の表情に内面がでるか
ら、画面全部を使って顔の細部をみせる。全身はいらない、上半身だけでいい。
こうして大首絵が誕生した。
難波屋おきたや高島おひさのような気軽にみれる美人画では感情の昂ぶりや
性格の強さのようなものをうかがうことはできない。ところが、相当くせの
強い女性が描かれる場合、例えば‘歌撰恋之部・物思恋’や‘北国五色墨・川岸’
や‘婦女人相十品・煙草の煙を吹く女’ではこの大首絵の効果が発揮される。
深い恋に陥ちこんだ裕福な商家の奥さん、吉原の最下級の女郎である川岸の
楊枝をくわえたふてぶてしい表情、煙草を煙を吹かす派手好きの女。これを
ズバッと描くのが歌麿の真骨頂。
いろいろ描き方を工夫した歌麿の技のなかで魅了されているのが‘衝立の男女’
や‘行灯の灯りで文読む女’にみられる透かしをとおして描かれるものや女性
の顔。夏用の衝立には風通しのために一部が薄く織った布になっており、
若衆の腰が透けてみえる。さらに、羽織を透かして女性の顔が半分のぞいて
いる。また、蚊帳の中から行灯の灯りで文を熱心に読んでいる女の姿にも
視線が集中する。