葛飾応為の‘吉原格子先之図’(1844~54年 太田記念美)
TVの美術番組というとNHKの‘日曜美術館’とTV東京の‘新美の巨人たち’を
毎週のお楽しみにしている美術ファンは多くいると思われるが、今は
以前ほど熱心にみていない。とくに‘美の巨人たち’は新しい番組づくりに
なってからは興味がなくなりチャンネルをあわせなくなった。
これに対し日美のほうはTVガイドで注目している作家が登場するときは
見逃さないようにしている。NHKではほかの番組でも美術関連のものが
とりあげられることが多く、4月からはじまった‘歴史探偵’(歴史秘話ヒ
ストリア!の衣替え)が葛飾北斎(1760~1849)にスポットを
あてていた。ここにおもしろい話がでてきた。
番組の探偵スタッフが北斎の謎解きのためにいろいろ調査をしていたが、
最後の‘北斎にはゴーストライターがいた!’が興味津々だった。ここでい
っているゴーストライターとは北斎の娘のお栄のこと。お栄は絵が上手
く葛飾応為の名で浮世絵を描いていた。これまでお目にかかったのは
片手ほど。その一枚が太田記念美にある‘吉原格子先之図’。これをはじめ
てみたときすぐある画家が目の前に浮かんだ。それは夜の絵、‘マグダラ
のマリア’を描いたラ・トゥール(1593~1652)。応為はまさに
‘日本のラ・トゥール’。やるじゃないか、お栄ちゃん!
2017年、大阪のあべのハルカス美で開催された‘北斎展’に長野・小布
施町の北斎館にある‘菊図’が出品されたが、おやっと思わせることを絵の
解説文にみつけた。描いたのは‘葛飾北斎、葛飾応為’となっている。以前
小布施でお目にかかっていたときはほかの肉筆画と同じく‘葛飾北斎’。
現在では研究者の分析が進み、北斎とお栄の合作という見方が定着しつ
つある。さらに、東博が所蔵している‘扇面流し図’についても探偵スタッ
フは花の描き方が応為に似ていると鋭くつっこみ、親子の共同制作の可
能性が高いとしている。
北斎には亡くなった90歳の落款の入った絵が18点残っている。番組に
出演した北斎研究家はその大半は応為が描いたものではないかとみてい
る。天才浮世絵師、北斎の絵の謎が少しずつ解けだした。