雪村の回顧展を運よく2度遭遇したので、主要作品はおおよそみることがで
きた。そして、それらをどこの美術館が所蔵しているかも一緒にインプット
された。私立の美術館ですぐ思い浮かぶのは京都の野村美、奈良の大和文華
館と東京の根津美と畠山記念館。根津にある‘龍虎図’は見応えのある屏風絵
(六曲一双)。左隻に描かれた虎のちょっととぼけた表情がおもしろい。
根津には国宝の‘那智瀧図’のほかにもうひとつ滝の絵がある。芸阿弥
(1431~1485)の‘観瀑図’。崖にできた3つの段差を豊富な水が流
れ落ち4本の滝が出現している。この変化のある滝の光景はほかにみたこと
がない。この絵は芸阿弥のもとで絵画の修行をした建長寺の僧祥啓が東国に
帰るとき与えられたもの。その祥啓もなかなかいい‘山水図’を描いている。
岩の塊が大きく内側にえぐられトンネルのようになっているところは師匠の
画風とよく似ている。
‘桜下蹴鞠図’はぼやっとみていると蹴鞠がどこにあるのが気がつかない。蹴鞠
は全部描かれてなく、一部がみえるだけ。そこは上の中央からすこし右のと
ころ。琳派の宗達の工房ではこんな描かれ方があったことが驚き。普通のやま
と絵の表現では蹴鞠は全部描くのに、琳派は大胆な構図をつくり見る者の意表
をつく。蹴鞠が小さくなった分、かえって蹴鞠に視線が集まる効果を狙ってい
るのかもしれない。
江戸時代前期に流行った‘誰が袖図’と呼ばれる屏風をこの美術館でみたとき、
‘これもありかい?’と思った。描かれているのは衣桁(いこう)や屏風に掛
けられた衣装のみ。まるで呉服屋へでかけ新しくつくる着物の生地を吟味して
いるよう。主役は花でも鳥でもなく衣裳とは。この絵は‘誰が袖図’の変種で
右隻は遊女と禿を登場させている。