‘ウェルフリートのマーサ・マッキーン号’(1944年 テイッセン・ボルネミッサ美)
町はずれのガソリンスタンドでもまわりの店の明りが消えた都市のカフェで
も、時計の針が夜の深まり指す頃になると否が応でも静けさが増し、切なさ、
淋しさがつのってくる。ホッパー(1882~1967)が‘夜ふかしを
する人々’を描いたのは1942年。ちょうど60歳のとき。
この孤独や憂愁が目いっぱい漂う絵とはイメージががらっと変わる作品を
ホッパーはだいだい同じころに描いている。それが海洋画。2008年のシ
カゴ美であった回顧展でみた‘大波’と2016年マドリードにあるティッセ
ン・ボルネミッサ美でもお目にかかった砂洲にいるカモメの群れが印象深い
‘ウェルフリートのマーサ・マッキーン号’。
ヨットで遊ぶ趣味がないので、こういうセーリングの醍醐味を味わったことが
ない。でも、白い雲がたなびく青い空のもと強い光を浴びてヨットをすいすい
と進めていけば爽快な気分になることは容易に想像できる。この大海原には
孤独感のかけらもない。あるのはサングラスが必要になるほどの眩しい光。
ホッパーが40歳のころから連作として描いた灯台も海と関連のあるモチーフ。
回顧展には7点も展示してあった。そのうち、画集によく登場するのが‘灯台
のある丘’と‘トゥ―ライツの灯台’。これは大西洋を望むメーン州エリザベス岬
に建っている灯台で視点を変えて描かれている。画面全体は明るいが、光が
つくる影の描写が人気のない場所で航海する船の安全見守る灯台の孤独さを感
じさせる。