神奈川県の美術館で一度は足を運んでおきたいのは箱根の美術館群は横に置
くと横浜美術館、神奈川県近美、横須賀美の3館。夫々にコレクションの
特徴があるが、神奈川県近美はこの絵をみるためだけでも出かける価値のあ
る洋画を所蔵している。洋画の父的な存在である高橋由一(1828~
1894)の‘江の島図’、今年回顧展を見逃した関根正二(1899~
1919)の‘少年’、松本竣介(1912~1948)の‘立てる像’。
洋画でも日本画でも風景画は描かれた場所へ行ったことがあると親しみが沸
く。コロナ禍でなければ大勢の人で賑わう江の島。潮がひき陸つながり
になった江の島を由一が描いたのは明治19年頃。こういう絵をみると
細部はちがっていても島や海岸の光景というのは時代は変わっても同じ形を
保ち続けるものだということがよくわかる。
20歳で亡くなった関根正二の描いた横向きの少年に大変魅了されている。
真っ赤な頬と少年にしては厳しい目つきは強いインパクトをもっている。
この‘少年’にしろ、アーチゾン美にある目の覚める朱(バーミリオン)にガツ
ンとやられる‘子供’にしろ、海外のブランド美術館で展示されれば多くの人の
心をとらえることはまちがいない。それくらいの名画である。
松本竣介の‘立てる像’はアンリ・ルソーの‘私自身、肖像=風景’を意識している。
また橋がよく描かれるがこれもルソーの影響。画面が全体として明るいか暗い
かで絵をみる気分はがらっと変わる。だから、モチーフの構成は竣介とルソー
は似ているが竣介の画面は暗いのでそこにはルソーのポエチックなイメージは
なく都市のもつ影や切ない空気を強く感じてしまう。
岸田劉生(1891~1927)の‘童女図(麗子立像)’と萬鉄五郎(1885
~1927)の‘日傘の裸婦(エチュード)’は一度見ると忘れられない作品。
見る者を驚かせる劉生のリアルな質感描写、緻密に描かれた赤の着物の柄に
油絵の重厚なテクスチャーはうかがわれる。裸婦が日傘をもって画家の前にい
るのだから、鉄五郎もモデルの夏の暑さのなかで絵の制作にあったいたことに
なる。芸術ごとは好きでないとできない。