‘十二ヶ月風俗図 十一月御火焚(左)十二月雪転(右)’(16世紀)
葉山のマリーナを右手にみながらどんどん進んでいくと神奈川県近美の葉山
館に着く。山口蓬春記念館はここから歩いて5分のところにある。10年
くらい前、鎌倉の鏑木清方記念美や棟方志功板画館(現在は閉館)へでかけ
ていたときは日本画家山口蓬春(1893~1971)が住んでいた記念館
にまで足をのばし何度も訪問した。
ここには蓬春が蒐集した日本画の名品がある。16世紀の土佐派によって描
かれた‘十二ヶ月風俗画’(重文指定)。色紙形の画面に正月から歳末の十二月
までの京洛の人々の暮らし、子どもの遊びや行事などが細密に描写されてい
る。元来風俗画をみるのを大きな楽しみにしているので、自然と目に力が入
る。左が十一月の火の粉にあたって無病息災をねがう御火焚、右の十二月は
子どもたちの雪だるま遊び。子どもたちの元気な姿におもわず頬がゆるむ。
尾形光琳(1658~1716)の‘飛鴨図’も嬉しい一枚。ここで光琳の鴨の
絵に遭遇するとは想像もしてなかった。でも、蓬春が琳派の装飾性にのめり
こんでいったことを考えるとこの絵を手に入れたことも納得がいく。
最初に傾倒した大和絵から生まれた‘燈籠大臣’は師匠の松岡映丘の作風からの
影響が強く感じられる作品。画家の作風は長い画業のなかでいろいろ変わる。
蓬春のサプライズはとびっきりの琳派様式を生み出したこと。それが‘扇面流
し’。傑作である。琳派のDNAは蓬春にも引き継がれていた。この絵は
2015年ワシントンのフリーア美で開催された‘宗達展’に加山又造の‘千羽
鶴’などと一緒に展示された。
蓬春の描く静物画でもっとも有名なのは‘紫陽花’。東近美、山種美が所蔵する
紫陽花同様大変魅了されている。絵描きのスタートは西洋画だったから静物
画は得意、ゴッホを思わせる向日葵にも感動する。