わが家の本棚に並んでいる展覧会の図録のなかで横山大観や東山魁夷ととも
に数が多いのが上村松園と鏑木清方(1878~1972)。そのなかに
鎌倉にある鏑木清方記念美のものが3冊ある。清方の美人画にのめりこむよ
うになったのは広島から帰ってきて記念美へ頻繁に足を運んだことが大きく
影響している。
ここでは年に3回くらいミニ清方展があり、所蔵作品に加えほかの美術館の
ものが展示される。展示室はひとつだけなので一度にみれるのは10点前後
。だから、10分もあれば今回は終わりとなるのだが、東近美蔵の‘明治風俗
十二ヶ月’といった主要作品が登場し鏑木ワールドをどんとみせてくれるので
充実した鑑賞となる。おかげで、綺麗な女性との出会いがどんどん増えてい
った。
所蔵作品はほとんど目に入っており、お気に入りはだいたい固まっている。
ビッグスリーは清方の娘をモデルにした‘朝涼’、フィギュアスケートの浅田
真央ちゃんを連想させる卵型の顔が心を揺すぶる‘ためさるゝ日’、そして清方
が描く女性の大半を占める切れ長の目としっとりした美しさが目を釘づけに
する‘虫の音’。
初期の作品で忘れられないのは泉鏡花の戯曲を絵画化した‘深沙大王’。思い
つめたような男女の後ろに人間に扮した猿や狐を描くという幻想的な表現が
意表を突く。そして、晩年にとりくんだ風俗画‘朝夕安居’がとてもいい。清方
が10歳の頃みた明治の東京下町の夏の光景が生き生きととらえられている。
描かれているのは夕方の場面。大きな建行燈に‘むぎゆ’と書かれた辻の茶店の
前で二人の老人が世間話をしている。BSチャンネルでよく放映される寅さ
んの映画をみているときにわきあがってくる郷愁と似た感情が生まれてくる。