美術館で開催される展覧会へ長く通っていると、美術の教科書にでてくる絵
と遭遇し大きな感動をおぼえることがある。2012年東芸大美で開かれた
高橋由一展に出品された‘鮭’はそんな一枚。おおげさにいうと、NYのMoMA
でピカソの‘アヴィニョンの娘たち’をみたときと同じような高揚感が味わえ
る。
これほど有名な絵を描いた高橋由一(1828~1894)なのに回顧展を
みたのはたったの一回。そして、2度目はたぶんない。日本画家に較べて洋
画家の回顧展は圧倒的に少なく、複数回縁があったのは黒田清輝(1866
~1964)だけ。ビッグネームの梅原龍三郎だって東近美でとりあげて
くれない。安井曾太郎展は随分前茨城県近美で行われたが、心理的に遠い
ので行きそびれた。
こんな風潮が美術界にあるので高橋由一展は大変ありがたい展覧会だった。
このとき印象深かった作品が西南戦争を描いた‘官軍が火を人吉に放つ図’。
火事というのは実際の現場でも絵でも目をかっと見開いてみてしまう。これ
は歴史画の範疇にはいるかもしれないが激しい戦闘の場面ではないので、
普通の民家に火が広がっている様子をとらえた風俗画のイメージ。
黒田清輝(1866~1964)の‘木かげ’と印象派のルノワールが描いた
木漏れ日を一緒に並べてみると二人の光の描写のちがいがわかる。黒田の
描く光のほうがかなり強い。だから、日本の風景のなかでこの木漏れ日は
ちょっと強すぎないかという思いが頭をもたげてくる。差し込む日射しに
もっと柔らかさがあると見方が変わってくるのだが。
黒田清輝とくれば藤島武二(1867~1943)。2年前練馬区美で念願
の回顧展に遭遇した。そこで嬉しい出会いがあった。長年追っかけていた
‘チョチャラ’。八重洲のブリジストンに通っているとすぐにでも会えそうな
ものだが、意外にも姿をみせてくれなかった。女性の肖像画のほかにも風景
画の傑作がいくつもでていたが、そのなかに高松の屋島を描いた作品もあっ
た。若い頃、仕事の関係で1年高松に住んでいたのでこの屋島にはすぐ反応
する。
藤島武二同様、青木繁(1882~1911)はブリジストン・コレクショ
ンのお宝中にお宝。代表作の多くがここにあるが、ウッドワンにもいいのが
ある。有名な‘海の幸’を彷彿とさせる‘漁夫晩帰’。流石である。