ルーヴルにあるヴェネツィア派で誰が主役を占めているかは絵のサイズが決
めている。ヴェロネーゼ(1528~1588)は縦6.7m、横9.9m
という巨大な絵を豊かな色彩で絢爛豪華に描いた。絵の題材はキリストの
奇跡を扱った‘カナの婚礼’。だが、これほど巨大な画面に多くの人物が宴会を
楽しんでいる場面が描かれているのどういうわけか印象が薄い。
その原因はこの絵画がダ・ヴィンチの‘モナ・リザ’と同じ部屋に飾られている
から。ほとんどの人は目玉中の目玉であるモナ・リザに心を震わせ得心が
いくまで‘モナリザの微笑み’を目に焼きつけたら、もうほかの絵をじっくり
みる鑑賞エネルギーは残っていない。たとえ‘カナの婚礼’がルーヴルで最も大
きい絵であったとしても。モナ・リザが相手では分が悪すぎる。
この部屋にはティツィアーノ(1485~1576)の‘田園の奏楽’や‘兎の
聖母’、‘エマオの晩餐’、日本にもやって来た‘鏡の前の女’などいい絵画が飾ら
れているのにたぶんヴェネツィア派好きでない普通の観光客はスルーして次
の展示室へ向かうだろう。
ティツィアーノの先輩にあたる同じヴェネツィア派のカルパッチオ(1460
~1526)の‘エルサレムでの聖ステパノの説教’はたしかモナリザの部屋で
はなくラファエロやダ・ヴィンチの‘岩窟の聖母’などが壁いっぱいに並んでい
るルーヴルのメインストリートにあった記憶がする。はじめのころはこの画家
には馴染みがなかったが、この絵は背景の風景にみられるの奥行き感と聖人と
まわりに集まった人々を円のように配置する構図に惹かれ強く印象に残って
いる。
マンテーニャ(1431~1506)の‘美徳の園から悪徳を追う出すミネル
ヴァ’は隣の’パルナッソス‘と対をなす作品。ここには驚愕のモチーフが描かれ
ている。それは槍と楯をもった左端の女神ミネルヴァの横のある細長い木。
よくみると裸婦がダブルイメージとして描写されている。ダリがこれをみた
ら裸足で逃げだすにちがいない。マンテーニャがこんなシュールなものを描き
込んでいたとは!