トレチャコフ美はシャガール(1887~1985)がモスクワにあるユダヤ劇場のために描いた壁画(7点)を所蔵している。これらは1995年~96年にかけて日本橋高島屋など6つの美術館を巡回した。ちょうどそのころ広島に住んでおり最後の会場となった広島県美で運よく遭遇した。
そして、この壁画とは縁が深く3年後の1999年イタリアを旅行した際、ローマの自由時間で定番の観光スポットをまわっていたとき偶然ある美術館で再会した。当時シャガールの壁画がヨーロッパ各地でも展示され人気を呼んでいたのである。
ユダヤ劇場は実業家の自宅を改造した90席の客席をもつ小劇場。シャガールは33歳のときその客席を取り囲む壁に7点の壁画を描いた。最も大きな‘ユダヤ劇場へのいざない’は縦2.8m、幅7.9mのワイド画面。逆立ちする軽業師や伝統的な民族音楽の楽士、牛などがシャガール独特のフォルムで軽やかに描かれている。
‘音楽’(2.1m×1.0m)はお馴染みの‘屋根の上のヴァイオリン弾き’、そして‘文学’(2.1m×0.8m)ではモーゼの律法記者の静かな姿。その横にほぼ同じサイズの‘舞踏’、‘演劇’が並んでいる。高さが2mもある画面が4つも揃うとシャガールがぐっと近くなる。
ロシア革命の翌年に描かれたのが‘結婚式’、シャガールと愛するベラの頭の上を天使が守護するように飛ぶ様子がとてもいい。じつはこの構図は1500年頃のフランス絵画‘金門での出会い’を拝借している。